分譲マンションでは、一棟のマンションの住戸(部屋)を区分けして販売します。
このように住戸を区分して所有する際の、各区分所有者の権利やマンション全体の管理方法などを定めた法律を区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)と呼びます。
この記事では、区分所有法における「建替え決議」について知ることができます。
建替え決議(第62条)
建替え決議要件(第62条1項)
区分所有法第62条1項では「集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその⼀部の⼟地⼜は当該建物の敷地の全部若しくは⼀部を含む⼟地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。」と定められています。
既存の建物の敷地と一部分も重なっていない土地への建替えはここで規定されている「建替え決議」には該当しません。
この場合の建替えには民法が適用され「全員の合意」が必要となります。
建替え決議において定める事項(第62条2項)
区分所有法第62条2項では「建替え決議においては、次の事項を定めなければならない。」と定められています。
⼀ 新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要
⼆ 建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費⽤の概算額
三 前号に規定する費⽤の分担に関する事項
四 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
各区分所有者への衡平の定め(第62条3項)
区分所有法第62条3項では「前項第三号及び第四号の事項は、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければならない。」と定められています。
「衡平」とは「つりあうこと」という意味です。
建替え決議集会の招集の通知(第62条4項)
区分所有法第62条4項では「第⼀項に規定する決議事項を会議の⽬的とする集会を招集するときは、第三⼗五条第⼀項の通知は、同項の規定にかかわらず、当該集会の会⽇より少なくとも⼆⽉前に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸⻑することができる。」と定められています。
2カ月前の通知を規約により伸長することはできますが、短縮することはできません。
区分所有法第35条1項(招集の通知)
集会の招集の通知は、会⽇より少なくとも⼀週間前に、会議の⽬的たる事項を⽰して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる
建替え決議における議案の要領の通知(第62条5項)
区分所有法第62条5項では「前項に規定する場合において、第三⼗五条第⼀項の通知をするときは、同条第五項に規定する議案の要領のほか、次の事項をも通知しなければならない。」と定められています。
⼀ 建替えを必要とする理由
⼆ 建物の建替えをしないとした場合における当該建物の効⽤の維持⼜は回復(建物が通常有すべき効⽤の確保を含む。)をするのに要する費⽤の額及びその内訳
三 建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
四 建物につき修繕積⽴⾦として積み⽴てられている⾦額
区分所有法第35条5項(招集の通知)
第⼀項の通知をする場合において、会議の⽬的たる事項が第⼗七条第⼀項、第三⼗⼀条第⼀項、第六⼗⼀条第五項、第六⼗⼆条第⼀項、第六⼗⼋条第⼀項⼜は第六⼗九条第七項に規定する決議事項であるときは、その議案の要領をも通知しなければならない。
建替え決議における説明会の開催(第62条6項)
区分所有法第62条6項では「第四項の集会を招集した者は、当該集会の会⽇より少なくとも⼀⽉前までに、当該招集の際に通知すべき事項について区分所有者に対し説明を⾏うための説明会を開催しなければならない。」と定められています。
集会招集通知の準用(第62条7項)
区分所有法第62条7項では「第三⼗五条第⼀項から第四項まで及び第三⼗六条の規定は、前項の説明会の開催について準⽤する。この場合において、第三⼗五条第⼀項ただし書中「伸縮する」とあるのは、「伸⻑する」と読み替えるものとする。」と定められています。
説明会の招集通知(説明会開催の1カ月前通知)も集会招集通知と同様に規約により伸長することはできますが、短縮することはできません。
(区分所有法第35条1項)
集会の招集の通知は、会⽇より少なくとも⼀週間前に、会議の⽬的たる事項を⽰して、各区分所有者に発しなければならない。ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。
(区分所有法第35条2項)
専有部分が数⼈の共有に属するときは、前項の通知は、第四⼗条の規定により定められた議決権を⾏使すべき者(その者がないときは、共有者の⼀⼈)にすれば⾜りる。
(区分所有法第35条3項)
第⼀項の通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかつたときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすれば⾜りる。この場合には、同項の通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなす。
(区分所有法第35条4項)
建物内に住所を有する区分所有者⼜は前項の通知を受けるべき場所を通知しない区分所有者に対する第⼀項の通知は、規約に特別の定めがあるときは、建物内の⾒やすい場所に掲⽰してすることができる。この場合には、同項の通知は、その掲⽰をした時に到達したものとみなす。
区分所有法第36条(招集⼿続の省略)
集会は、区分所有者全員の同意があるときは、招集の⼿続を経ないで開くことができる。
議事録記載の準用(第62条8項)
区分所有法第62条8項では「前条第六項の規定は、建替え決議をした集会の議事録について準⽤する。」と定められています。
区分所有法第61条6項(建物の⼀部が滅失した場合の復旧等)
前項の決議をした集会の議事録には、その決議についての各区分所有者の賛否をも記載し、⼜は記録しなければならない。
区分所有権等の売渡し請求等(第63条)
建替え参加回答の催告(第63条1項)
区分所有法第63条1項では「建替え決議があつたときは、集会を招集した者は、遅滞なく、建替え決議に賛成しなかつた区分所有者(その承継⼈を含む。)に対し、建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を書⾯で催告しなければならない。」と定められています。
電磁的⽅法による催告(第63条2項)
区分所有法第63条2項では「集会を招集した者は、前項の規定による書⾯による催告に代えて、法務省令で定めるところにより、同項に規定する区分所有者の承諾を得て、電磁的⽅法により建替え決議の内容により建替えに参加するか否かを回答すべき旨を催告することができる。この場合において、当該集会を招集した者は、当該書⾯による催告をしたものとみなす。」と定められています。
催告による回答期間(第63条3項)
区分所有法第63条3項では「第⼀項に規定する区分所有者は、同項の規定による催告を受けた⽇から⼆⽉以内に回答しなければならない。」と定められています。
63条1項及び2項で定められている「建替え決議に参加するか否かを回答すべき旨の催告」を行う期限は特に定められてはいません。
回答期間を経過した場合の扱い(第63条4項)
区分所有法第63条4項では「前項の期間内に回答しなかつた第⼀項に規定する区分所有者は、建替えに参加しない旨を回答したものとみなす。」と定められています。
区分所有権及び敷地利⽤権の売り渡し請求権(第63条5項)
区分所有法第63条5項では「第三項の期間が経過したときは、建替え決議に賛成した各区分所有者若しくは建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者(これらの者の承継⼈を含む。)⼜はこれらの者の全員の合意により区分所有権及び敷地利⽤権を買い受けることができる者として指定された者(以下「買受指定者」という。)は、同項の期間の満了の⽇から⼆⽉以内に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者(その承継⼈を含む。)に対し、区分所有権及び敷地利⽤権を時価で売り渡すべきことを請求することができる。建替え決議があつた後にこの区分所有者から敷地利⽤権のみを取得した者(その承継⼈を含む。)の敷地利⽤権についても、同様とする。」と定められています。
つまり建替え決議が成立した時には、建替えに賛成しなかった区分所有者は「建替え決議に賛成して建替えする」または「区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡して退去する」かのいづれかを選択しなければならなくなります。
売り渡し請求に伴う裁判所の権限(第63条6項)
区分所有法第63条6項では「前項の規定による請求があつた場合において、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者が建物の明渡しによりその⽣活上著しい困難を⽣ずるおそれがあり、かつ、建替え決議の遂⾏に甚だしい影響を及ぼさないものと認めるべき顕著な事由があるときは、裁判所は、その者の請求により、代⾦の⽀払⼜は提供の⽇から⼀年を超えない範囲内において、建物の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。」と定められています。
建替え決議に賛成しなかった区分所有者は売り渡し請求があった場合には、通常は売り渡し請求が相手方に到着した時点で直ちに売買契約が成立し、専有部分の引渡し及び登記移転義務を負うことになります。
しかし、特別な事情がある場合には裁判所に請求することにより最長1年間建物の明渡しの猶予が与えられる可能性があります。
建物の取壊し⼯事の未着手(第63条7項)
区分所有法第63条7項では「建替え決議の⽇から⼆年以内に建物の取壊しの⼯事に着⼿しない場合には、第五項の規定により区分所有権⼜は敷地利⽤権を売り渡した者は、この期間の満了の⽇から六⽉以内に、買主が⽀払つた代⾦に相当する⾦銭をその区分所有権⼜は敷地利⽤権を現在有する者に提供して、これらの権利を売り渡すべきことを請求することができる。ただし、建物の取壊しの⼯事に着⼿しなかつたことにつき正当な理由があるときは、この限りでない。」と定められています。
建物の取壊し⼯事の起算日(第63条8項)
区分所有法第63条8項では「前項本⽂の規定は、同項ただし書に規定する場合において、建物の取壊しの⼯事の着⼿を妨げる理由がなくなつた⽇から六⽉以内にその着⼿をしないときに準⽤する。この場合において、同項本⽂中「この期間の満了の⽇から六⽉以内に」とあるのは、「建物の取壊しの⼯事の着⼿を妨げる理由がなくなつたことを知つた⽇から六⽉⼜はその理由がなくなつた⽇から⼆年のいずれか早い時期までに」と読み替えるものとする。」と定められています。
【再売り渡し請求権についてのまとめ】
再売り渡し請求権とは、売り渡し請求権を受けて区分所有権・敷地利用権を売り渡した者が、買主(権利を現に有する者)に対して支払った代金に相当する金銭を提供して権利を売り渡すよう請求する権利(買いもどすようなもの)のことです。
(再売り渡し請求ができる場合)
①決議の⽇から2年以内に建物の取壊し工事未着⼿の場合
・2年を過ぎてから6ヵ月以内に再売り渡し請求可能
※但し、工事未着⼿の正当な理由がある場合はNG
②工事未着⼿の正当な理由がなくなった場合
・⼯事未着手の理由がなくなったたことを「知った⽇から6ヵ月以内」⼜は「その理由がなくなつた⽇から2年以内」に再売り渡し請求可能
建替えに関する合意(第64条)
区分所有法第64条では「建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者及び区分所有権⼜は敷地利⽤権を買い受けた各買受指定者(これらの者の承継⼈を含む。)は、建替え決議の内容により建替えを⾏う旨の合意をしたものとみなす。」と定められています。
①建替え決議に賛成した各区分所有者
②建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者
③区分所有権⼜は敷地利⽤権を買い受けた各買受指定者(承継⼈含む)
まとめ
本記事の区分所有法(建替え決議等)についてご理解頂けたでしょうか。
建替え決議は議決権の4/5以上の賛成が必要となる最も厳しい要件となる決議事項です。
そのため、国内でのマンションの建替えの事例も少なく、合意形成までの期間も長く、労力も非常にかかることです。
しかし、今後日本国内では築40年を超えるマンションも多くなってくるため、地震に弱い旧耐震のマンションなど建替えするべきマンションも多くなってきます。
また、築浅のマンションでも将来的な大規模修繕や、建替えなどを見据えて計画していくことが大切です。
本記事で記載しました建替え決議に関する知識を頭の片隅にでもおいて頂けると幸いです。
本記事も読んでいただきどうもありがとうございました。
e-Govポータル (https://www.e-gov.go.jp)