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マンションの修繕積立金は、将来の大規模修繕工事や設備更新などに備えて、区分所有者が長期間にわたって積み立てていく大切なお金です。

マンションの規模や築年数によっては、数千万円、数億円という大きな金額が管理組合の口座に積み立てられていることも珍しくありません。

では、この修繕積立金。

ただ銀行口座に預けておくだけでよいのでしょうか。

近年は金利環境も変化し、管理組合が利用できる資金管理・運用の選択肢も少しずつ増えています。

一方で、修繕積立金は個人の資産運用とは全く性格が異なります。

今回は、マンション管理組合における修繕積立金の「貯め方」ではなく、「守り方」について考えてみたいと思います。

修繕積立金は「投資するためのお金」ではない

まず大前提として、管理組合の修繕積立金は、個人や企業が行う資産運用とは大きく性格が異なります。

個人であれば、自分自身の判断と責任で株式や投資信託などへ投資し、資産を増やすことができます。

しかし、管理組合の修繕積立金は理事長や役員個人のお金ではありません。

区分所有者全員から、将来の修繕工事のために集めた共同の財産です。

しかも、そのお金は将来使うことがほぼ決まっています。

そのため、管理組合の資金管理では、一般的な資産運用のように

「どれだけ増やせるか」

を最優先にするのではなく、

「必要なときに、必要な金額を確実に使えるか」

という視点が非常に重要になります。

基本は「安全性 → 流動性 → 収益性」

管理組合が修繕積立金の管理方法を考える場合、私は次の順番が基本だと考えています。

  1. 安全性― 元本を大きく毀損する可能性が低いか
  2. 流動性― 必要なときに換金して工事費として使えるか
  3. 収益性― そのうえで、どの程度の利息や収益が得られるか

個人投資では収益性を優先することもできますが、管理組合では順番が逆です。

まず守る。その次に使える状態を確保する。そして最後に、可能な範囲で収益を得る。

これくらい慎重な考え方が必要ではないでしょうか。

管理組合が利用できる選択肢は増えている

これまで、管理組合の修繕積立金の代表的な保管・運用方法といえば、普通預金、決済用預金、定期預金などが中心でした。

そこに加えて、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」があります。

マンションすまい・る債は、大規模修繕に向けた修繕積立金の計画的な積立てを支援する、マンション管理組合専用の利付10年債です。

近年の金利上昇を受けて利率も上昇しており、普通預金だけで管理する場合と比較して、管理組合にとって検討しやすい選択肢の一つになっています。

さらに2026年12月募集分、2027年1月発行分からは、従来の「個人向け国債」の販売対象がマンション管理組合などにも拡大され、名称も「個人向け国債プラス」へ変更される予定です。

これによって、管理組合が利用できる安全性を重視した資金管理の選択肢が、さらに一つ増えることになります。

標準管理規約でも「修繕積立金の管理及び運用」が明記された

制度面でも変化があります。

2025年10月に改正された国土交通省のマンション標準管理規約では、第28条の修繕積立金の使途として、新たに

「修繕積立金の管理及び運用」

が明記されました。

また、標準管理規約では、修繕積立金の保管及び運用方法については、総会の決議事項とされています。

つまり、修繕積立金については単に「貯めておく」のではなく、管理組合としてその保管・運用方法を考えることが、これまで以上に重要になってきたといえるでしょう。

民間の運用商品も登場している

最近では、管理組合の修繕積立金を対象とした民間の運用商品やファンドなども登場しています。

これまで管理組合の資金管理といえば、預金やマンションすまい・る債など、比較的安全性の高い商品が中心でした。

そこに新しい選択肢が加わりつつあること自体は、悪いことではありません。

しかし、

「選択肢が増えたこと」と「積極的に投資すべきこと」は、全く別の問題です。

民間の商品には、元本保証ではないものや、市場環境によって損失が発生する可能性があるものもあります。

途中換金の可否や手数料、元本毀損の可能性、商品を提供する事業者の信用力など、確認すべき事項も多くなります。

利回りだけを見て判断することは、管理組合の資金管理としては非常に危険だと思います。

「株や投資信託で運用できないか」と相談されたことがあります

以前、投資に詳しい知人から、

「管理組合の修繕積立金を株式や投資信託で運用することはできないだろうか」

と相談されたことがあります。

確かに、うまく運用できれば預金などより大きな利益を得られる可能性はあります。

しかし私は、そのような運用は慎重に考えた方がよいとアドバイスしました。

なぜなら、管理組合の役員という立場から考えると、非常にリスクとリターンのバランスが悪いからです。

儲かっても褒められない。でも損をすれば責任を問われる?

例えば、理事長の提案によって修繕積立金を株式等で運用し、大きな利益を得たとします。

もちろん、その利益は管理組合全体の財産になります。

しかし、提案した理事長や役員個人に特別な利益が還元されるわけではありません。

一方で、大きな損失が発生した場合はどうでしょうか。

他の区分所有者から、

「なぜ修繕積立金でそんなリスクを取ったのか」

「なぜこの商品を選んだのか」

「本当に十分な説明をしたのか」

と責任を問われる可能性があります。

つまり、役員個人の立場から見ると、

利益を出した場合の見返りは小さい一方、損失を出した場合の責任は非常に大きくなり得る。

言い換えれば、管理組合役員にとっては、ある意味で

「ハイリスク・ローリターン」

ともいえるのではないでしょうか。

「総会で可決されたから大丈夫」とは限らない

標準管理規約では、修繕積立金の保管及び運用方法は総会決議事項とされています。

したがって、資金運用を行うのであれば、総会で十分に説明し、組合員の意思を確認することは極めて重要です。

しかし私は、

「総会で承認されたから、何をしても問題ない」

という考え方も危険だと思います。

標準管理規約では、役員は法令、規約、総会・理事会の決議に従い、組合員のため誠実に職務を遂行することとされています。

例えば、管理組合の資金の性質を十分に考慮せず、非常にリスクの高い商品を選び、そのリスクについて十分な説明も行わないまま総会へ上程したような場合には、総会で承認されたという事実だけで役員としての責任が当然になくなるとは限らないでしょう。

具体的な法的責任の有無は個別事情によって異なりますが、だからこそ、管理組合のお金を運用する際には慎重な判断が必要です。

資金は「いつ使うのか」で分けて考える

では、管理組合は修繕積立金をどのように管理すればよいのでしょうか。

一つの考え方は、資金を

「いつ使う予定なのか」

によって分けることです。

例えば、近い将来に大規模修繕工事を予定している資金まで、長期間換金しにくい商品に入れてしまうことは適切ではありません。

一方で、長期修繕計画上、当面使用する予定がない資金まで全額普通預金に置いておく必要があるのかは、検討の余地があります。

例えば、

  • 数年以内に使用する予定の資金は流動性の高い預金で確保する
  • 当面使わない資金については定期預金等を検討する
  • さらに長期間使用予定のない資金についてはマンションすまい・る債や国債等を検討する

といったように、長期修繕計画と資金の使用時期を照らし合わせながら管理する方法も考えられます。

運用益を増やすことより大切なこと

ここまで修繕積立金の運用について考えてきました。

しかし、私は管理組合にとって、資金運用以上に大切なことがあると思っています。

それは、

修繕積立金を「無駄に使わないこと」です。

仮に修繕積立金を安全な方法で運用し、年間数十万円、数百万円の利息を得ることができたとしても、大規模修繕工事や設備更新で数百万円、数千万円余計に支払ってしまえば、その効果は簡単に吹き飛んでしまいます。

マンションでは、大規模修繕工事をはじめ、給排水設備、エレベーター、機械式駐車場など、大きなお金が動く工事が数多くあります。

だからこそ、

  • 本当に今、この工事が必要なのか
  • 工事時期は適切なのか
  • 工事範囲は適切なのか
  • 仕様が過剰になっていないか
  • 他の工法はないのか
  • 見積価格は適正なのか
  • 複数社を比較できているか

といったことを管理組合自身がしっかり確認することが重要です。

数%の利回りより、数千万円の工事を適正価格で

修繕積立金の運用を考えると、どうしても

「金利は何%か」

「どの商品が一番増えるか」

というところに目が向きます。

しかし、管理組合の支出全体から考えれば、より重要なのは大規模修繕工事などの大きな支出です。

例えば、本来5,000万円程度で実施できる工事を、十分な比較や検討を行わず5,500万円で発注すれば、その差は500万円です。

この500万円を資金運用だけで取り戻そうとすれば、相当な時間と元本が必要になります。

そう考えれば、

数%の運用利回りを追い求めること以上に、大きな工事を適正な価格で発注する努力の方が、管理組合に与える効果が大きい場合があります。

修繕積立金を守ることは、区分所有者のお財布を守ること

修繕積立金は、管理組合だけのお金ではありません。

もともとは、区分所有者一人ひとりが毎月負担して積み立ててきたお金です。

修繕積立金を無駄に使えば、将来積立金が不足し、再び区分所有者から値上げや一時金として集める必要が生じるかもしれません。

逆に、必要な工事を適正な価格で実施し、無駄な支出を減らすことができれば、将来の負担増を抑えることにもつながります。

つまり、

修繕積立金を守ることは、管理組合のお金を守ることであり、最終的には区分所有者一人ひとりのお財布を守ることでもあります。

まとめ

近年、金利環境の変化や制度改正によって、管理組合が修繕積立金を管理・運用する選択肢は少しずつ増えています。

預金、マンションすまい・る債、そして今後は個人向け国債プラスなど、管理組合として検討できる方法も広がってきました。

一方で、選択肢が増えたからといって、積極的にリスクを取る必要はありません。

修繕積立金は、投資で利益を得るためのお金ではなく、将来必要となる修繕工事を確実に実施するためのお金です。

だからこそ、

「どう増やすか」よりも、まず「どう守るか」。

そして、さらに重要なのは、

「どう無駄に減らさないか」

ではないでしょうか。

数%の利回りを追い求めるよりも、大規模修繕工事などの大きな支出について、本当に必要な工事を見極め、適正な価格で実施する。

その積み重ねこそが、修繕積立金を守り、管理組合を守り、そして区分所有者一人ひとりのお財布を守ることにつながると私は考えています。

修繕積立金は「増やす」ことより、「無駄に減らさない」こと。

シリーズの最後に、これを皆さんにお伝えしたいと思います。



※本コラムは、国土交通省「マンション標準管理規約」、財務省「個人向け国債プラス」、住宅金融支援機構「マンションすまい・る債」等の公表情報を参考に、マンション管理の実務における筆者の考えをまとめたものです。金融商品の利用や役員の法的責任については、個々の管理規約、商品内容、総会決議の内容等によって異なります。実際に資金運用を検討する場合には、必要に応じて金融機関、弁護士、マンション管理士等の専門家へ確認してください。

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