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マンションでは、築年数が一定程度経過すると「そろそろ大規模修繕工事の時期ですね」という話が出てきます。

そして、建物診断を行い、建物の周囲に足場を設置して、外壁補修、シーリング打替え、防水、塗装などをまとめて実施する。

これが、これまで多くのマンションで行われてきた一般的な大規模修繕工事のイメージではないでしょうか。

もちろん、この方法には多くのメリットがあり、今後も大規模修繕工事が適しているマンションは数多くあると思います。

一方で私は、これからのマンション修繕について考えるのであれば、

「そもそも大規模修繕工事を実施することを前提に考える必要があるのだろうか?」

というところから、一度考えてみてもよいのではないかと思っています。

そもそも「大規模修繕工事」とは何をする工事なのか

私たちは普段、当たり前のように「大規模修繕工事」という言葉を使っています。

しかし、マンションの組合員の方に、

「大規模修繕工事では、具体的に何を修繕するのですか?」

と聞いた場合、具体的な工事内容まで説明できる人は、それほど多くないのではないでしょうか。

一般的な大規模修繕工事では、例えば次のような工事が行われます。

  • 外壁タイル等の補修工事
  • 外壁塗装工事
  • シーリング打替え工事
  • バルコニー・共用廊下等の防水工事
  • 屋上防水改修工事
  • 鉄部塗装工事

シーリングとは、外壁の目地やサッシまわりなどの隙間に充填されている弾力性のある材料です。目地や取り合い部分から雨水が侵入することを防ぐ役割があり、広い意味では建物の防水性能を維持するための重要な工事の一つです。

屋上防水やバルコニー防水が主に「面」で水の侵入を防ぐのに対し、シーリングは目地や隙間という「線」の部分で水の侵入を防ぐ、と考えると分かりやすいでしょう。

大規模修繕では、劣化した既存のシーリング材を撤去して、新しいシーリング材を充填する「シーリング打替え工事」が行われることがあります。

つまり、「大規模修繕工事」という一つの工事が存在するというより、複数の具体的な修繕工事をまとめて実施することを、大規模修繕工事と呼んでいると考えた方が分かりやすいと思います。

私は、管理組合が修繕について検討するときには、単に「大規模修繕工事」と考えるだけではなく、

「外壁タイル補修工事」
「シーリング打替え工事」
「バルコニー防水工事」
「屋上防水改修工事」

など、一つひとつの具体的な工事内容を見ることが大切だと考えています。

その方が組合員にとっても、「何を直すのか」「何のためにお金を使うのか」が分かりやすくなるからです。

なぜ複数の修繕工事をまとめて行うのか

では、なぜ複数の工事をまとめて「大規模修繕工事」として実施するのでしょうか。

その大きな理由の一つが、足場です。

マンションの外壁を広範囲に補修するためには、一般的に建物の周囲に足場を設置します。

一度足場を設置すれば、外壁タイル補修だけでなく、シーリング打替え、外壁塗装など、足場を必要とする複数の作業を同じ時期に実施することができます。

逆に、外壁補修のために足場を設置し、数年後にシーリング打替えのために再び足場を設置し、さらに数年後に塗装工事のためにまた足場を設置するのであれば、そのたびに仮設費が必要になります。

そのため、

「せっかく足場を設置するのであれば、必要な工事をまとめて実施した方が効率的」

という考え方には十分な合理性があります。

国土交通省の長期修繕計画に関する資料でも、枠組足場や養生シートなどの仮設工事が想定されています。

したがって私は、全面足場を設置して複数の工事をまとめて行う、従来型の大規模修繕工事そのものを否定しているわけではありません。

建物の形状や劣化状況、工事範囲によっては、今後もこの方法が最も合理的なマンションは数多くあると思います。

しかし「外壁工事=全面足場」という前提も変わりつつある

一方で、建築材料だけでなく、施工方法も進歩しています。

その一つが、ロープを利用した高所作業です。

ロープアクセスというと、屋上からロープで垂直方向に降りながら建物を調査したり、補修したりする姿をイメージする人も多いと思います。

しかし現在では、単純に上下方向へ移動するだけでなく、施工方法や設備によっては横方向へ移動しながら作業する方法もあります。

そのため、建物の形状や施工内容によっては、全面足場を設置しなくても、外壁調査や部分的な外壁補修などを行えるケースがあります。

もちろん、ロープを利用すればどのような工事でも対応できるということではありません。

広範囲の外壁補修や塗装、多数のシーリング打替えなど、多くの作業員が長期間にわたって施工する場合には、全面足場を設置した方が施工性や作業効率の面で優れている場合もあります。

また、ロープ高所作業には墜落等の危険があるため、安全管理は非常に重要です。厚生労働省では、ロープ高所作業について労働安全衛生規則等を定め、ライフラインの設置、作業計画、特別教育などの安全対策を求めています。

つまり、

「全面足場か、ロープアクセスか」

という単純な二者択一ではなく、

「今回必要な修繕には、どの施工方法が最も適しているのか」

を一つひとつ検討することが重要だと思います。

上下だけでなく横方向にも移動する新しい仕組みも登場している

さらに興味深いのは、従来のロープアクセスとは異なる考え方の施工方法も登場していることです。

一例として、ヤオキ株式会社が紹介している「リペアレールZ」という工法があります。

同社の説明では、レールとロープを利用して上下だけでなく左右にも移動しながら作業できることを特徴としており、全面足場を設置せず、外壁のひび割れ、タイル補修、バルコニー周辺の防水など、問題のある箇所を優先して分散して補修する考え方が示されています。

また、予算に応じて破損箇所を部分的に補修し、従来まとめて実施していた大規模修繕を分散して施工するという考え方も紹介されています。

ヤオキ株式会社「リペアレールZ」について

※ここで「リペアレールZ」を紹介しているのは、特定の工法や施工会社を推奨するためではありません。全面足場を前提としない施工方法の一例として紹介しています。実際の性能、費用、安全性、施工可能な工事項目、建物への適合性等については、採用を検討する際に個別に確認する必要があります。

私は、このような新しい施工方法が登場していること自体に大きな意味があると思っています。

なぜなら、これまでの大規模修繕には、

「足場を設置するために大きな費用がかかる」
↓
「せっかく足場を設置するのであれば、複数の工事をまとめて実施した方がよい」

という経済的な合理性があったからです。

ところが、全面足場を設置せずに必要な場所へアクセスできる施工方法が増えてくれば、

「一度に全部まとめて工事しなければならない」

という従来の前提そのものについても、見直す余地が出てくる可能性があります。

「大規模修繕」からではなく「必要な修繕」から考える

ここで、修繕を考える順番を変えてみます。

「大規模修繕の時期が来た」

だから建物診断を行い、今回の大規模修繕で何を工事するか決める。

という考え方ではなく、まず、

「現在、このマンションのどこに、どのような劣化や不具合があるのか」

を確認します。

そして、

「何を、いつ、どのような方法で修繕する必要があるのか」

を判断します。

その結果、外壁、シーリング、防水などについて同じ時期に広範囲な修繕が必要なのであれば、全面足場を設置し、複数の工事を大規模修繕としてまとめて実施する。

一方、必要なのが外壁の一部補修だけであれば、ロープアクセスや部分足場などで対応する。

屋上防水の劣化が進んでいるのであれば、屋上防水改修工事だけを先行して実施する。

一部のシーリングに著しい劣化が見られるのであれば、その範囲について補修や打替えを検討する。

そして数年後に別の部位の修繕が必要になれば、その時点で施工する。

つまり、

「大規模修繕工事をするために、工事内容を決める」のではなく、

「必要な修繕を検討した結果として、大規模修繕工事になることもある」

という考え方です。

私は、こちらの方が本来の修繕の考え方に近いのではないかと思っています。

小規模・中規模修繕を積み重ねるという選択肢

そこで考えられるのが、小規模・中規模な修繕を必要に応じて実施していく方法です。

例えば、

  • 外壁の一部に不具合が見つかったので、その部分を補修する
  • シーリングの劣化が著しい箇所について打替えを行う
  • 屋上防水の劣化が進んだので、防水工事だけを先行して実施する
  • 鉄部のうち、劣化が進んでいる部分について塗装する

といった方法です。

こうした修繕を適切な時期に積み重ねていくことで、全面足場を伴う大規模修繕工事の時期や工事内容そのものを見直せるマンションもあるかもしれません。

ただし、これは建物に不具合が生じるまで放置するという意味ではありません。

むしろ、建物の状態を継続的に確認し、必要な箇所を必要な時期に修繕していくという、これまで以上に細かな維持管理が必要になります。

小中規模の修繕にもデメリットはある

ただし、

「これからは大規模修繕をやめて、小中修繕にすればよい」

という単純な話ではありません。

工事を分散すると、次のような問題が生じる可能性があります。

  • 見積取得や発注、工事監理の回数が増える
  • 総会決議等の管理組合運営上の手間が増える
  • 仮設設備等の費用が複数回発生する場合がある
  • 複数の施工会社が関与し、責任区分が分かりにくくなる場合がある
  • 保証期間や保証範囲の管理が複雑になる
  • 一括施工によるスケールメリットを得られない場合がある

居住者にとっても、数年おきに工事が続くより、一度まとめて施工してもらった方が負担が少ない場合もあるでしょう。

そのため、全面足場による大規模修繕と、小中規模の分散修繕のどちらが優れているかを一律に決めることはできません。

「大規模修繕工事」という言葉だけで判断しない

私は、「大規模修繕工事」という言葉そのものを使うことが悪いとは思っていません。

複数の修繕工事をまとめて実施する際の総称として分かりやすく、マンション管理の実務にも定着している言葉だからです。

ただ、

「第2回大規模修繕工事 ○億円」

という説明だけで管理組合が意思決定してしまうことには、少し違和感があります。

組合員が本当に知る必要があるのは、

  • 何を修繕するのか
  • なぜ今、修繕する必要があるのか
  • どのような施工方法を採用するのか
  • なぜその施工方法を選ぶのか
  • 他の施工方法はないのか
  • 複数の工事を今回まとめて実施する必要があるのか

といったことではないでしょうか。

その意味でも、

「大規模修繕工事」という大きな括りだけではなく、一つひとつの工事について考えてみる

ことが大切だと思います。

大規模修繕を否定するのではなく、「大規模修繕ありき」を見直す

マンションの修繕に、一つの正解があるわけではありません。

全面足場を設置して複数の工事をまとめた方が合理的なマンションもあります。

ロープアクセスや部分足場などを活用して、必要な箇所を適宜修繕した方が合理的なマンションもあるでしょう。

小中規模の修繕を積み重ねることで、結果として全面的な大規模修繕工事の周期を延ばせるマンションもあるかもしれません。

重要なのは、

「マンションだから大規模修繕工事をする」

と最初から決めてしまわないことだと思います。

まず、建物の状態を見る。

必要な修繕を考える。

施工方法を比較する。

まとめて施工した方が合理的なのか、分散した方が合理的なのかを検討する。

そして、その結果として全面足場を伴う大規模修繕工事が最も適しているのであれば、それを選択する。

これからのマンション修繕では、このような柔軟な考え方がこれまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。

これまでの経験や事例を大切にしながらも、それだけにとらわれず、

「自分たちのマンションにとって、本当にこの修繕方法が一番よいのか?」

と一度考えてみる。

一つひとつのマンションの建物の状態、資金状況、形状、施工条件などに合わせ、新たな技術や発想も取り入れながら、最も適した方法を考えていくことが、これからのマンション修繕には求められているのではないでしょうか。


【参考資料】
国土交通省「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン」
厚生労働省「ロープ高所作業について」
ヤオキ株式会社「リペアレールZ」

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