日本は世界の中でも地震が非常に多い国です。
そのため、日本国内では過去の大地震により建物が倒壊したり、大きな損傷を受けることもあり、マンションなどの建築物の耐震基準(建築基準)や建築構造が何度も見直しされてきました。
本記事ではそのような「マンションの建築構造」について学ぶことができます。
建築構造の材料
鉄骨造(S造)
構造上主要な部分に形鋼などの鋼材を用いて柱と梁を主体とした骨組を構成する構造で、主に低層用の軽量鉄骨と、中層以上用の重量鉄骨を用いたものがあげられます。
① 鉄筋コンクリート構造(RC造)と比較して軽量(自重が軽い)
② 高層の建物や柱間の空間面積を広くとれる「大スパン構造」の建築が可能
③ じん性が高いことにより耐震性が高い
① 被覆のない鋼材は500℃以上の熱で強度が半減するなど熱に弱い(耐火被覆が必要)
② 腐食しやすく、防錆処理が必要
③ 圧縮力に弱い(鉄骨が横に折れ曲がりやすい)
④ 鉄筋コンクリート構造(RC造)と比較して耐火性・遮音性・耐振動性に劣り、マンションでの採用例は少ない
鉄筋コンクリート造(RC造)
引張力に強い鉄筋と圧縮力に強いコンクリートの両者の特性を活かした合理的な組み合わせの一体構造で、最近のマンションでは最も多く用いられる構造です。
強度の高いコンクリート開発に伴い、昨今では中高層マンションでも鉄筋コンクリート構造が採用されています。
事前に成型された部材を用いる「プレキャストコンクリート工法」で使用される鉄筋コンクリート部材については、工場で生産される場合と、現場の構内で製造する場合とがあります。
また、プレキャストコンクリートと現場打ちコンクリートの併用(ハーフプレキャスト)も多く用いれらています。
① 耐火性・耐久性・耐震性が高い
② 形態の自由度が高い
① 建物が重量となる(自重が大きい)
② 施工管理により品質に差がでやすい
③ 施工費が高額
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
鉄骨の骨組みを鉄筋コンクリートで被覆したものを主要な構造部材とし、鉄筋コンクリート構造よりも強さと粘りが高い耐震耐火構造です。
① 耐火性・耐久性・耐震性が高い
② 高層の建物に適しており、大スパン構造の建築も可能
① 施工工程が長期にわたる
② 施工管理により品質に差がでやすい
③ 施工費が高額
鋼管コンクリート造(CFT造)
円形または角形鋼管にコンクリートを充填した柱に鉄骨の梁等を組合わせた構造で、鋼管にコンクリートを充填することによって、それぞれが有する材料特性以上の相乗効果を発揮します。
「鉄骨造」、「鉄骨鉄筋コンクリート造」、「鉄骨鉄筋コンクリート造」に続く第4の構造として注目されています。
① 耐震性が高い
② 施工性が良い(型枠が不要)
③ 空間自由度が大きい
④ 中性化が生じにくい(コンクリートが空気に触れないため)
① コストが高い
② 一般的に耐火被覆が必要
建築構造の構造形式
ラーメン構造
柱・梁等の部材の接点をしっかりと接合固定(剛接合)して構成された枠(ラーメン)によって、荷重や外力に対応して建物を支える構造。
低層から高層まで幅広い建築物に対応することができ、鉄骨構造、鉄筋コンクリート構造、鉄骨鉄筋コンクリート構造などで採用されます。
耐震壁をフレームに包含した耐震壁付きラーメン構造が最も一般的です。
「耐震壁」とは、特に地震力などの水平荷重に対して抵抗するために設けられた壁のことです。
ラーメン構造において耐力壁を設ける場合には、その耐力壁は、柱と梁とを構造的に一体となるようにします。
壁式構造
柱を用いず、耐力壁と床といった平面的な構造体のみで構成される構造です。
壁の多い住宅などの中低層の建築物に適しており、柱型が内部に出ないため室内空間がすっきりするようなメリットがあります。
マンションの住棟形式
マンションの6種類の住棟形式についてまとめてみます。
・低層の棟割長屋形式の集合住宅
・上下に他の住戸が重ならない
・各戸が専用庭を持つ
・駐車場、共用庭等の共有敷地がある
・戸建て住宅の独立性と集住化することによる経済性を併せ持つ
・階段室から直接各住戸にアプローチする形態
・廊下型に比べて独立性が高い
・エレベーターの設置は1基あたりの利用戸数が少なくコストパフォーマンスが悪い
・中廊下型(共用廊下の両側に居室)と片側廊下(共用廊下の片側に居室)とがある
・中廊下型は、異なる日照条件を持つ住戸計画となり日照や通風等の居住性に劣るため採用例は少ない(高層マンション等での採用が多い)
・中廊下型を採用する場合は、住棟を南北軸に配置することが多い
・高層マンションで廊下型と階段室型を組合わせたもの
・廊下を3階層程度ごとに設け、エレベーターをその階のみに停止させるためエレベーターの運行が経済的
・エレベーターが停止しない階は共用廊下が不要になるため、その分住戸の面積を広げる等することができる
・エレベーター停止階以外の住戸の独立性が高まる
・停止階以外を考えるとバリアフリーとはいえない
・高層マンションや超高層マンションで住棟中央部に共用廊下・階段室・エレベーターホール等がある
・高層マンションや超高層マンションで住棟中央部に吹き抜けがあり、その吹き抜けに面した共用廊下から各住戸にアプローチする
マンション供給方式
マンションの4種類の供給方式についてあげてみます。
長期間にわたって快適に住み続けられる住宅を提供するための設計・生産・維持管理にわたるトータルシステムの考え方
建物を躯体(S:スケルトン)と内装設備(I:インフィル)とに分離して計画するもので、維持・補修・交換・更新等の容易性が確保されるように配慮され、将来的に間取りの変更も可能となる
一般的に既存建物の利用目的を別の目的に変えること。近年では既存のオフィスビルを住宅に改造するコンバージョンが注目されている
組合を結成した人たちが共同して住宅を取得する方式のこと
マンションと地震
建物にかかる荷重
荷重とは建築物の骨組みや地盤に加わる力のことで、様々な種類があります。
そのような荷重の種類についてまとめてみます。
・躯体、仕上げ材料、固定されている設備機器等の建築物自体の重量による荷重
・鉛直方向に働く力
・屋根、床、壁等の建築物の部分別に定められた数値により計算する
・建築物の人間や家具、調度、物品等、移動が比較的簡単にできるもの(固定荷重ではないもの)の重量による荷重
・鉛直方向に働く力
・住宅の居室、事務室、自動車車庫等、室の種類別に定められた数値により計算する
・屋根等に降り積もった雪の重量による荷重
・鉛直方向に働く力
・風によって建物外周の各面に働く荷重
・主に水平方向に働く力
・地震により建築物が揺れるときに生じる慣性力による荷重
・水平方向に働く力
・建物の地下部分の壁などに周囲の土や地下水から働く荷重
地震の規模
地震の規模はマグニチュードで表され、値が1増えるごとにエネルギーが約32倍となります。
揺れの強さは震度で表され、日本国内では10階級に区分されています。
震度の階級は「0・1・2・3・4・5弱・5強・6弱・6強・7」の10階級で、計測震度計により自動測定されます。
耐震基準
現在日本国内での建築基準法における最新の耐震基準は、1981年(昭和56年)6月1日以降に建築確認を受けた建築物に適用されている「新耐震基準」と呼ばれる基準です。
逆に新耐震基準前に建築された建築物は「旧耐震基準」と呼ばれています。
また、新耐震基準では、震度5強程度の地震では「ほとんど損傷しない」、震度6強~7程度の地震で「倒壊・崩壊しない」ことを目標としています。
震度6強~7程度の地震において倒壊・崩壊しないというのは、「建物にある程度の被害がでるのはやむを得ないが、建物の中や周囲にいる人に被害がでないようにする」ことを目標にするものです。
つまり、地震で建物が壊れないようにすることではなく、建物を使う人等の安全を確保することが目標です。
旧耐震基準の建築物でも中層の鉄筋コンクリート構造の壁式構造や、プレキャスコンクリート工法で建築された建築物は、壁量が多いため一般的に耐震性は高いとされています。
地震対策の構造
地震に対する3種類の構造について次にあげていきます。
建物自体の強度を高めることで大きな地震に対しても建物が壊れたり倒れたりしないようにした構造
・主に建物基礎と上部構造との間に積層ゴム等の免震装置を設け、免震層が設けられている構造で、地震のエネルギーを吸収して上部構造への伝達を低減させる
・「アイソレーター(支承認)」と「ダンパー(減衰材)」の2つから免震装置は構成されている
・新築時だけでなく既存マンションにおいて事後的に免震構造化することができる(既存建築物の柱の途中に設置する工法もある)
建物の骨組みにダンパー等の制震装置を取り付け、建物に生ずる揺れを吸収・抑制する構造
地震に弱い建築物
地震に弱い建築物の特徴5つを次にあげていきます。
ピロティとは1階部分に壁がなく、柱だけで建物を支えているような吹きさらしの空間で、壁の量が少なく、地震の際にそこから建物が崩壊する危険性がある。
対策としては、耐震壁の増設や枠付きの鉄骨ブレースの設置があげられる。
地震の際に曲がっている部分に大きな力が加わり、そこから建物の崩壊する危険性がある。
対策としては、建物を2以上の直方体に区切って隙間をもたせ、その隙間を伸縮金具で覆い接合する「エキスバンション・ジョイント(伸縮可能な継ぎ手)」を用いる。
剛芯(水平力に対する強さの中心)と重心(建物の重さの中心)が離れている建物は、ねじれの力が大きく働き、建物が崩壊する危険性がある。
耐力壁等の配置のバランスが悪い建物は、地震時に建物が崩壊する危険性がある。
上層部と下層部で構造形式が異なる建物(例えば上層階がRC造、下層階がSRC造など)では、構造形式が切り替わる付近の階で層崩壊(剛性の小さな階に変形が集中して潰れてしまうこと)などの被害が集中する危険性がある。
耐震補強
耐震補強方法について次にあげていきます。
・耐震壁の増設
・鉄筋コンクリート壁増設等
・柱と一体化したそで壁による補強
・垂れ壁や腰壁に関する耐震スリットの新設
・鉄筋コンクリート壁増設等
・柱と一体化したそで壁による補強
・枠付き鉄骨ブレース補強
・外付けフレーム補強
・バットレス(控え壁)補強
・柱に関する鋼板巻き立て、炭素繊維巻き補強
・垂れ壁や腰壁に関する耐震スリットの新設
・梁に関する炭素繊維巻き補強
・制震装置の組み入れ
・建物の免震構造化
液状化現象
液状化現象とは、普段はかみ合っている土の粒子が地震による振動によってばらばらになり地下水の中に浮いたような状態となることで、砂が地中から噴き上げてくる現象のことをいいます。
海岸や川のそばの比較的地盤がゆるく地下水位が高い砂地盤に発生しやすい。
基礎構造
基礎とは、建物の最下部で建物の荷重を地盤に伝え、さらに建物と地盤を固定する部分のことで、直接基礎と杭基礎の等の種類があります。
直接基礎
直接基礎は、建物の規模が小さく軽量である場合や、地表近くに支持層となる良質の土層がある場合に採用され、フーチング基礎(布基礎)やベタ基礎等があります。
柱や壁の直下で、建物の荷重や外力を地盤面に分散される機能を持つ基礎
許容地耐力に比較して建築物の荷重が大きい場合に、建物の全平面にわたって一体となったフーチングを設ける基礎
杭基礎
杭基礎は、建物の規模が大きく重量がある場合や、軟弱な土層が地表から相当深い場合等、直接基礎では安定的に建物を支えるのが難しい時に、建物の重量を下部地盤に伝達させる杭を使って支持させる基礎で、支持杭や摩擦杭などがあります。
杭を使い、建物を深い位置の硬い層で支持する基礎
支持層が深いところにあり、杭の先端を支持層に到達させるのが困難な場合に、杭周面の摩擦力で建物を支える基礎
1つの建物で部分的に異なる構造方法による基礎を用いる「基礎の混用」は、不同沈下による建築物の損傷の一因ともなるため、避けるよう注意する必要があります。
まとめ
本記事のマンションの建築構造について理解頂けたでしょうか。
日本は地震大国であるため、世界的にみてもマンションを含めて日本の多くの建築物は特に地震に強い構造で建築されています。
しかし、本記事で紹介したように建築された時代や技術の変化、建築物の種類により建築構造や材料が異なっています。
自身でマンションを購入する時はもちろんのこと、賃貸でマンションに居住しようと検討する際にも、そのマンションの建築構造や建築された耐震基準も調べてみてはいかがでしょうか。
本記事も読んで頂きどうもありがとうございました。