建築・設備・維持保全

マンションの劣化と診断(鉄筋コンクリート)

自動車を適切に維持していくためには定期的な点検を行い、不良個所が見つかった時は適切に修理していくことが必要です。

マンションに限ったことではありませんが、建築物も同様に定期的に建物診断を実施して適切な対応をしていくことが欠かせません。

しかし、マンションのような建築物には一般の人では対応することが難しい様々な劣化要因があり、専門家に依頼して対応してもらうことが有効な手段と言えるでしょう。

本記事では、マンションにおける鉄筋コンクリートの劣化と診断について紹介していきます。

劣化の種類

マンションには大きく分類すると次にあげる3種類の劣化に分かれます。

物理的劣化

・使用による減耗など物理的要因の劣化
・雨水や二酸化炭素など科学的要因の劣化

機能的劣化

・建築後の技術向上により既存の設置機器などが相対的に陳腐化する劣化
・竣工後の法改正により、新法に対応していないという意味で相対的に陳腐化する劣化

社会的劣化

・社会的要求水準の変化による劣化

鉄筋コンクリートの劣化

現在のマンション建築構造において最も一般的ともいえる鉄筋コンクリート造りである鉄筋コンクリートには様々な劣化する要因があります。

次にそれらの劣化要因についてあげていきます。

鉄筋コンクリートの中性化

コンクリートの中性化とは、コンクリートのアルカリ性が空気中の炭酸ガス(二酸化炭素)で失われる現象です。

アルカリ性は鉄筋を錆から守っているため、そのアルカリ性が失われると鉄筋が錆びて強度が低下してしまいます。

その結果、躯体全体の強度が下がり、おまけに鉄筋は錆びると膨張するため、外壁のひび割れ、剥落や鉄筋露出などの劣化現象につながります、

中性化の進行を遅らせるためには、モルタル塗等の仕上げが有効とされています。

打ち放しのコンクリートの中性化は屋外側よりも屋内側の方が進行しやすくなります。
これは、屋外より屋内側の方が、人の活動により二酸化炭素の濃度がたかくなるためです。

中性化が進行することによって強度が低下するのは鉄筋の強度であり、コンクリート自体の強度が低下するわけではありません!

鉄筋腐食

コンクリートの中性化やひび割れ、化学物質や漏洩電流により鉄筋が発錆する現象です。

鉄筋露出

新築時のかぶり厚さ不足が原因で、腐食した鉄筋が表面のコンクリートを押し出して剥離させ、露出した状態です。

ブリージング

コンクリートの打ち込み後に硬化中のコンクリート表面に練り混ぜた水の一部が浮いてくる現象です。

ポップアウト

コンクリート内部の部分的な膨張圧で、コンクリート表面の小部分が円錐形のくぼみ状に破壊された状態のことです。

アルカリ骨材反応

骨材の周囲にあるアルカリ分と骨材中の物質とが反応し、膨張を起こす現象です。

コンクリート表面に亀甲状のひび割れや骨材のポップアウト現象が生じます。

アルカリ骨材反応は大きく分けると「アルカリシリカ反応」と「アルカリ炭酸反応」という2種類に分かれます。

ひび割れ

コンクリートに耐えられる限界以上の応力が生じるとひび割れが発生します。

その代表的な原因についてまとめてみます。

乾燥収縮

乾燥によるコンクリート中の水分の蒸発によってコンクリートの体積が減少して収縮していきます。使用水量・水セメント比が大きいコンクリートほど乾燥収縮の度合いが大きくなり、窓等の開口部の周囲で生じた場合、隅角部から斜め(放射状)にひび割れが生じます。

中性化による鉄筋腐食

中性化によって鉄筋が腐食すると鉄筋は膨張し、コンクリート表面に鉄筋の配筋に沿って規則性をもった直線状のひび割れが生じます。

ブリージング

ブリージングにより、水平鉄筋等の上面に規則性のある直線状のひび割れが生じます。

アルカリ骨材反応

アルカリ骨材反応による膨張が発生すると、コンクリート表面には不規則な亀甲状のひび割れが生じます。また、ポップアウト現象が生じることもあります。

コールドジョイント

打設(コンクリートの流し込み)を中断したり遅延させたりした場合に、先に打ち込んだコンクリートが凝結して生ずる、一体化していないコンクリートの打ち継ぎ目のことです。一般的には気温が高い方が発生しやすくなります。

豆板(ジャンカ)

材料の分離や締固め不足等により、硬化したコンクリートの中の一部に粗骨材が集まって露出した空隙の多い部分のことです。豆板の周囲では中性化が生じやすくなります。

漏水

水が部材の断面を透過して染み出たり、部材間の隙間から漏出したりする現象で、ひび割れ、コールドジョイント、豆板等が主な原因となります。

浮き

仕上材が躯体から剥離した状態や、躯体コンクリートの鉄筋のかぶりが浮いている状態のことです。

剥落

仕上材やコンクリートが躯体から剥がれ落ちることです。

大たわみ

鉄筋の腐食やひび割れ、外力や熱作用により、主として水平部材が大きく変形する現象です。

不同沈下

不同沈下とは、地盤の状態や基礎の耐力不足などの理由で、建物が場所により異なる沈下をすることです。建物が傾いたりするため、斜めにひび割れが生じます。

錆汚れ

腐食した鉄筋の錆がひび割れ部から流出し、コンクリートの表面に付着した状態のことです。

エフロレッセンス(白華現象)

目地などから雨水などがコンクリート内に侵入し、コンクリート中の可溶性物質(石灰等)が水に溶けて表面に染みだし空気中の炭酸ガス(二酸化炭素)と化合して固まって白色の粉状等になった状態です。

エフロレッセンス自体は美観上の問題はあるものの、コンクリート構造物の強度や耐久力などの大きな低下にはなりません。

しかし、エフロレッセンスが発生している原因がひび割れにともなった水分であれば、コンクリート内部の鉄筋が錆び、構造強度の低下に繋がることが考えられます。

鉄筋コンクリートの劣化診断

前項で鉄筋コンクリートの劣化要因についてあげましたが、ここではそれらの劣化の調査及び診断方法についてあげていきます。

中性化診断

コンクリートの中性化診断方法はいくつかあります。

一つは、コンクリートを円筒状態にコア抜きし、そのコンクリートにフェノールフタレイン溶液を噴霧等して行う方法です。

フェノールフタレイン溶液を噴霧等した箇所が赤色に変色せず、無色のままである箇所は中性化が進行していると判断することができます。

また、中性化の深さはスケール付きの内視鏡(コンクリートチェッカー)やノギス(長さ等を図る工具)を用いて測定します。

もう一つの方法は、ドリル削孔(粉末)法という診断方法です。

これはドリルでコンクリートを削っていき、フェノールフタレイン溶液を染みこました試験紙にその削った粉末が落ちることによって試験紙が赤紫色に変化した時にその孔の深さを測定して診断していきます。

コンクリート中の塩分量診断

コンクリート中の塩分は、鉄筋の腐食を促進させてしまいます。

その結果、内部鉄筋は腐食によって強度がさがることにつながります。

ただし、コンクリートの強度は下がることはありません。

塩分量の診断は、コア抜きしたコンクリートを試験場に持ち込み、塩化物含有量測定器(電位差滴定装置)を用いて塩化物イオンの量を測定実施します。

鉄筋の腐食診断

コンクリートについて、中性化が鉄筋まで達していた場合や、塩分量が多い場合は、鉄筋の腐食状態を診断することが必要です。

腐食により変化する鉄筋の電位を測定することで、鉄筋腐食を診断する電気化学的方法として自然電位法があります。

また、コンクリートのかぶり厚さや鉄筋の配筋位置等の調査方法として、電磁波レーダー法があります。

コンクリートの圧縮強度診断

コンクリートの圧縮強度を診断する方法とし、破壊を伴わない簡易的に診断する非破壊検査と、一部損壊を伴う破壊検査の2つの診断方法があります。

非破壊検査は、コンクリート表面をリバウンドハンマー(シュミットハンマー)で打撃し、その跳ね返りの程度によりコンクリートの圧縮強度を測定します。(反発度法とも呼びます)

そして、破壊検査は、コンクリートをコア抜きし、そのコンクリートを試験器にかけ、破壊までに必要な圧縮力から強度を測定します。

リバウンドハンマー(シュミットハンマー)により実施する非破壊方法での診断では、破壊試験よりも強度が高めに出ることがあるなど、診断結果の精度は高いとはいえず耐震診断においての適用は一般的ではありません。

ひび割れの劣化診断と補修方法

ひび割れ診断

コンクリートのひび割れは、漏水箇所や劣化の原因と深い関連性があります。

ひび割れの幅が0.3mm以下であっても、漏水の原因にもなりえます。

ひび割れ補修方法

ひび割れの補修方法には、ひび割れ状態に応じていくつかの補修方法に分かれます。

それらの補修方法について次にまとめてみます。

シール工法

ひび割れ幅がが0.2mm未満の小さい場合に用いられる工法で、ひび割れの生じている表面の部分に、エポキシ樹脂等を塗布(シール)して補修します。
ひび割れ部分に挙動がある場合には可とう性エポキシ樹脂を用います。

樹脂注入工法

ひび割れ幅が0.2mm~1.0㎜である場合や、ひび割れ幅が1.0㎜を超える場合でも挙動がない場合等にエポキシ樹脂の注入によって補修を行う工法です。

Uカットシール材充てん工法

ひび割れ幅が0.2mm~1.0㎜で挙動がある場合や、ひび割れ幅が1.0㎜を超える場合等において、ひび割れ部分全体をU字型(またはV字型)に削り取り、その部分にシール材を充填して補修する工法です。
ひび割れに挙動がある場合には、補修材として可とう性エポキシ樹脂や、シーリング材等を用います。

また、ひび割れの形状等によって原因を推測することも可能となり、ひび割れの調査はひび割れの幅に加え、その形状や全体分布状態もあわせて調査していくこととなります。

外壁タイル・モルタルの劣化診断と修繕方法

外壁タイルやモルタルの劣化現象には剥落、欠損、浮き、エフロレッセンス、ひび割れ、錆汚れ、はらみ、汚れ、水漏れ等があります。

外壁タイルのひび割れは、主に下地のモルタルやコンクリートに原因があります。

外壁の劣化を放置しておき、万が一水漏れなどが発生すると、原因の究明に時間がかかったり、困難であったりと大きなマンション居住者の方たちにも大きな影響を及ぼします。

また、外壁の剥落により通行人などが怪我をする可能性もあり劣化を放置することは大きな問題につながっていきますので、迅速に修繕していくことが必要です。

外壁タイル・モルタルの調査・診断

外壁タイル及びモルタルの調査・診断について次にまとめてみます。

外観目視

目視や双眼鏡、トランシットなどを用いて不具合の有無を確認します

打撃診断

①テストハンマー(パールハンマー)等でタイルやモルタルをたたき、打音で浮きの有無や程度を判断する診断調査
・タイル:高く硬い音
・モルタル:低くこもった音
②建築基準法12条1項の特定建築物定期調査では、手の届く範囲をテストハンマーによる打診等により確認し、その他は必要に応じて双眼鏡等を使用し目視により確認する。
異常が認められた場合は、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分を全面的に打診等により確認する。
③竣工後又は外壁改修後10年を超え、かつ3年以内に落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面的なテストハンマーによる打診等を実施していない場合には、原則として、当該部分を全面的に打診等により確認する。

反発法

タイルやモルタルに打撃を与え、跳ね返りの程度によって浮き等の有無や程度を診断する

赤外線法

外壁タイル等の剥離部分と健常部の温度差を赤外線カメラで測定し、浮き等の有無や程度を診断する調査
※ 撮影で温度差による変化の大きい日に調査をすることが適切

付着強度試験

外壁タイル等に機器を取り付け、目地等に切り込みを入れて引っ張り調査機器で引っ張り、タイルが剥がれるのに必要な力を測定して、付着力を診断する

外壁タイル等の修繕方法

次に外壁タイル等の修繕方法についていくつかあげていきます

①注入口付きアンカーピンニング樹脂注入工法
・タイルやモルタル等の仕上げ層の浮き部分に注入口付アンカーピンによりエポキシ樹脂を注入する工法

②アンカーピンニング全面エポキシ樹脂注入工法
・タイルの目地に穿孔(せんこう)して樹脂を注入してタイルを固定させる工法

③ピンネット工法
・既存のタイルやモルタル等の仕上げ層を撤去せずに、アンカーピンによる仕上げ層の剥落防止と繊維ネットによる既存仕上げ層の一体化により安全性を確保する工法

外壁塗装の劣化診断

外壁塗装の劣化

外壁塗装の劣化現象については次のものがあります。

塗装の表面の劣化

汚れの付着・光沢度の低下・変退色・白亜化(チョーキング)・摩耗

白亜化(チョーキング)は、雨や紫外線に長期間さらされることで充填材が離脱しやすくなり、塗装の表面に劣化が生じて塗料の成分がチョークのような粉状になって消耗していく現象のことです。
外壁の塗り替えの目安とされます。
また、白亜化は塗装の劣化であり、エフロレッセンス等のコンクリートそのものの劣化とは異なります。

塗装内部の劣化

ふくれ・割れ・剥がれ・摩耗

外壁塗装の診断方法

外壁塗装の診断方法については次のとおりです。

外観目視

色見本等との比較や、分光側色計等の機器を使用して行う。
チョーキングについては、手で塗装表面をこする指触診断等を行う。

付着力診断

①引張試験
建研式接着力試験器を用いて、塗料などの仕上げ材の表面引張強度を調査・診断します。

②クロスカット試験
塗膜にカッターナイフ等で格子状に切り込みを入れてテープを貼付け、引きはがした後に残る塗膜の状態によって付着力を判断します。

まとめ

本記事のマンションの劣化と診断についてご理解頂けたでしょうか。

外壁などのひび割れは水漏れの原因や鉄筋コンクリートの強度の低下にもつながりマンション建物全体に大きな被害をもたらす可能性があります。

そのため、劣化を確認した場合には迅速に修繕していくことが適正な維持管理をしていくためには必要です。

マンションの健康状態をチェックするために定期的な診断を適切に実施していくように努めましょう。

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