マンション管理士は、管理組合と管理会社の間に立ち、専門的な立場から管理運営の適正化をサポートする専門家です。
しかし現代は、人口減少、高齢化、役員の担い手不足、理事会の形骸化など、管理組合の抱える問題が複雑化・深刻化しています。
加えて、ChatGPTなどの生成AIが社会に急速に浸透し、情報や知識の価値が根本から見直される時代が到来しました。
こうした変化の中で、AIは多くの人の仕事を奪う「脅威」として捉えられ、マンション管理士もその例外ではありません。
しかし実際には、多くの業務を効率化し、より本質的な価値提供へと導く「相棒」になり得ます。
本記事では、AI時代にマンション管理士が果たすべき新たな役割についての個人的な展望を述べていきたいと思います。
AIは「敵」ではなく「相棒」
AIの急速な進化は、文章生成、翻訳、要約、画像認識など、これまで専門家の業務とされていた分野にも踏み込んできました。
マンション管理士の仕事も例外ではなく、「議事録の作成」「各種資料のチェック」「総会資料のドラフト作成」などの定型業務は、AIの導入で飛躍的に効率化できます。
例えば、ChatGPTを使えば、会話の音声記録から自動的に議事録を起こし、適切な敬語や法令用語を挿入することも可能です。
また、理事会に向けた提案資料のたたき台をAIに作らせれば、マンション管理士はその内容の妥当性チェックと実務的提案のブラッシュアップに注力できます。
つまり、AIによって「単純作業の時間を減らし、専門的判断に集中できる」環境が整いつつあるのです。
マンション管理士がAIを使いこなせるか否かで、今後の専門家としての立ち位置が変わってくるでしょう。
AIはマンション管理士にとって代わる存在ではなく、業務を支援し、顧客への価値を高めるための強力な相棒なのです。
「判断の質」を高めるAI
AIの活用は単なる作業効率化にとどまらず、「判断の質」を高めるツールとしても期待されています。
例えば、長期修繕計画の作成では、AIが過去の修繕履歴や周辺物件の傾向、建材価格の動向などを分析し、複数のシミュレーションパターンを提示することも考えられます。
また、総会の議案作成においても、過去の類似議案や法令改正の履歴をもとに、リスク要因や想定反対意見をAIが先読みして整理することもできるでしょう。
これにより、マンション管理士は客観的でバランスのとれた判断が可能になり、組合員との合意形成を円滑に進めることができるのです。
AIの特性は「膨大な情報の中から最適解を高速に導くこと」です。
人間の「経験」や「勘」に頼っていた部分にデータドリブン(直感や経験ではなく「データ(客観的な数値・事実)」をもとに意思決定や行動を行うこと)の視点を取り入れることで、説得力のある提案が実現できる可能性が高まります。
つまり、AIはマンション管理士の判断力を補強し、意思決定の「質」を底上げする存在なのです。
組合員や居住者とのコミュニケーションもAIが変える
マンション管理は「人と人との関係性」に大きく依存しています。
しかし近年では、理事会の非活性化や組合員や居住者間の対話不足が深刻化し、意思疎通の難しさが課題となっています。
ここでもAIは新たな可能性を示しています。
例えば、組合員や居住者からのよくある質問に対する「AIチャットボット」の導入により、問い合わせ対応の負担を軽減できます。
また、アンケートの自動集計や意見のクラスタリング機能(大量のデータの中から「似た特徴を持つグループ(クラスタ)」を自動的に分類・整理する機能)を用いれば、多様な意見を可視化し、理事会が的確に判断を下す手助けにもなります。
さらに、オンライン理事会や組合員説明会において、AIが発言内容をリアルタイムで要約・議事録化したり、多言語翻訳により外国人居住者とのコミュニケーションの架け橋となる活用法も現実味を帯びています。
このように、AIは「伝える・伝わる」を強化する技術であり、組合員や居住者との信頼構築や合意形成の土台を支える役割を担うようになります。
AI活用に潜むリスクと責任
便利なAIですが、過信は禁物です。
AIの出力結果には誤情報や偏りが含まれることもあり、それをそのまま使えばトラブルの原因になりかねません。
特に法的判断や契約内容に関する助言については、AIの限界を正しく理解し、最終的な判断は人間が行うべきです。
また、居住者データや契約情報など、個人情報や機密情報をAIに扱わせる場合は、情報セキュリティやプライバシーの観点から慎重な運用が求められます。
AI導入による業務フローの変更が、管理組合や管理会社との信頼関係にどう影響するかも含めて配慮が必要です。
マンション管理士は、AIを「盲信」するのではなく「使いこなす責任」がある立場となるでしょう。
AIが出力した内容に責任を持てるのか、適法かつ倫理的な範囲で使われているか、その判断と運用ルールの設計も、これからのマンション管理士に問われる資質です。
AIを使いこなす管理士が選ばれる時代へ!使われる専門家からの脱却
これからのマンション管理士は、「AIを活用できること」そのものが専門性の一部になると考えられます。
従来型の「知識を提供する管理士」から、「課題解決のパートナーとして伴走できる管理士」へと進化することが求められています。
例えば、AIを使って提示した修繕計画案をもとに、管理会社や管理組合と調整・交渉しながら、実行可能な着地点を見つけ出す。
その過程では、単に情報を伝えるだけでなく、居住者の感情や背景に寄り添う力も不可欠です。
AIはあくまで「土台」を作るだけであり、「人間ならではの判断」や「説得力ある説明」があって初めてマンション管理士の価値が光ります。
つまり、AIによって「使われる」専門家ではなく、「AIを使いこなしAIと共存できる」専門家こそが、これからの管理組合から選ばれる存在になるのです。
時代が変われば、専門家の在り方もまた変わる。
柔軟に変化を受け入れ、新しい武器を手にしたマンション管理士こそが生き残り、活躍していくのです。
まとめ
AIの登場により、マンション管理士の業務環境は劇的に変わりつつあります。
定型業務の効率化、判断支援、居住者や組合員対応の強化といった恩恵を享受する一方で、責任ある活用と適切なリスク管理も求められます。
今後、AIをうまく使いこなせるマンション管理士が、より多くの管理組合から信頼され、選ばれる時代になるでしょう。
これからのマンション管理士に求められる真の価値は、単なる経験や知識の多さではなく、「固定観念にとらわれず、現場の実情に即して柔軟に対応し、新たな発想と視点で管理組合に具体的な成果をもたらす力」にあります。
この視点を持ち、時代と共に進化し続ける専門家でありたいものです。
本記事も読んでいただきどうもありがとうございました。