現代のマンション管理は、「高齢化」「役員の担い手不足」「長期修繕計画の不備」「管理費の圧迫」「修繕積立金の不足」「住民間トラブル」など、さまざまな課題に直面しています。
多くの管理組合では、理事などの役員は区分所有者である組合員の中から選出されますが、専門的な知識や経験を持つ方は少なく、任期の短さも相まって、「場当たり的な判断」や「管理会社任せ」の運営になってしまう傾向があります。
近年では、役員の担い手不足が深刻化し、理事会を廃止して管理会社が管理者となる「管理業者管理者方式」へ移行する管理組合も増えてきており、新築マンションの竣工時より理事会方式ではなく、管理業者管理者方式を採用しているマンションも多くあります。
しかし、管理会社と管理組合は利益相反が生じる可能性のある関係であるため、第三者的・中立的な立場からアドバイスできる「マンション管理士」のような外部専門家の存在は、ますます重要になっていくでしょう。
管理組合が「誤った判断」を避け、適切な意思決定を行うためには、管理会社とは異なる視点を持つ外部の支援を活用することが鍵となります。
本記事では、管理組合が良好なマンション管理を維持するために、どのようにマンション管理士を活用すべきかを解説し、その活用方法について理解を深める一助とすることができるでしょう。
マンション管理士とは何者か?どこまで頼れるのか
「マンション管理士」とは、2001年に制度化された国家資格で、マンションの管理・運営に関する幅広い知識を備えた専門家です。
マンション管理士はマンション管理組合運営に必要な多面的な知識も身につけており、管理組合の相談役、アドバイザー、場合によっては管理組合の理事や監事などに就任して、管理組合のサポートを行うことも可能です。
次にマンション管理士の主な業務例について以下にまとめてみます。
◆長期修繕計画や管理規約の見直し支援
◆大規模修繕工事の業者選定支援
◆管理会社の業務チェックや変更支援
◆総会・理事会の運営補佐や議案書作成支援
◆区分所有者間のトラブル調整や合意形成の助言
◆管理費・修繕積立金の適正化アドバイス
◆管理組合の役員(管理者・理事・監事など)に就任し、役員としての業務支援
上記のようにマンション管理士は多岐にわたり管理組合の支援を実施することができます。
マンション管理士活用の秘訣
マンション管理士を上手に活用するには、いくつかの秘訣があります。
まず、「何を任せたいか」を明確にすることが重要です。
目的が曖昧なまま依頼すると、費用対効果が得られにくくなります。
具体的な課題、たとえば「大規模修繕の不安」「管理会社への不満」「住民トラブル」など、優先順位を定めた上で相談することが鍵です。
また、相性も大切です。
マンション管理士によって得意分野やスタンスが異なるため、面談や初回相談を通じて「管理組合のカラーに合うか」を見極めることが肝要です。
以下にマンション管理士活用の秘訣をまとめます。
【相談内容を具体的に整理して伝える】
・「漠然とした悩み」ではなく「何について、どこで困っているか」を明確にする。
【ゴール(目的)を共有する】
・「管理費削減を目指したい」「合意形成をスムーズにしたい」など、目指す成果を最初に伝える。
【情報提供を惜しまない】
・議事録、契約書、規約など、必要な資料を積極的に開示することで的確なアドバイスを得られる。
【マンション管理士を「一緒に考えるパートナー」と位置づける】
・単なるアドバイザーではなく、問題解決に共に取り組む存在と捉える。
【定期的な打ち合わせの機会を設ける】
・マンション管理士に任せきりにするのではなく、定期的に進捗を共有し、助言を受ける仕組みを作る。
【組合内に理解者・推進役を確保する】
・理事長や担当理事が積極的にマンション管理士と連携し、組合内の協力体制を築く。
【「成果」で評価し「感謝」で信頼関係を築く】
・アドバイスの実施後の効果を見える化し、成果を共有し合う。
【業務範囲と役割分担を明確にする】
・「助言まで」「提案書作成まで」「実務代行なし」など、マンション管理士に依頼する業務範囲を最初にすり合わせ、明確にする。
【業務の遂行状況を定期的に監査する】
・例えば半年や1年ごとに「進捗報告」や「成果物のレビュー」を求めるなど理事会・監事などでマンション管理士の活動状況を把握する。
マンション管理士の誤った活用例
マンション管理士も「魔法使い」ではありません。
管理組合は、マンション管理士を活用する際には目的を明確にし、期待する役割を整理したうえで依頼しなければなりません。
マンション管理士の力を適切に引き出し、効果的に活用することが求められます。
また、管理会社との対立を目的にマンション管理士を活用することは慎重に検討する必要があります。
こうした活用は管理組合と管理会社との関係悪化を招き、その後のマンション管理体制に深刻な影響を及ぼす可能性が高くなるためです。
さらに、マンション管理組合が抱える問題は多岐にわたり、マンション管理士だけでは対応できない、あるいは法律上対応してはならない事項も存在します。
以下に、マンション管理士の誤った活用例や注意すべきポイントをまとめます。
◆管理会社との対立をあおるために活用する
・対立を目的にすると管理体制が不安定になり、かえって組合運営に悪影響を及ぼす。
◆期待する役割やゴールを曖昧にしたまま依頼する
・成果物や助言範囲を事前に明確にしないと、満足な結果が得られない。
◆法的判断や専門士業(弁護士・建築士等)の領域まで要求する
・マンション管理士には法律上できる業務範囲に制限があり、越権行為となる業務は要求できない。
◆マンション管理士のアドバイスを絶対視しすぎる
・マンション管理士の意見はあくまで一つの意見として受け止め、最高意思決定機関は管理組合であることを忘れない。
◆活動内容や成果の検証を行わない
・マンション管理士の遂行業務を定期的に業務内容や助言の有効性をチェックし、必要に応じて見直しを検討することが大切。
◆マンションの特殊事情を共有せずに相談する
・立地、居住者・組合員属性、過去のトラブル歴などの背景情報を伝えないと、的確な助言を得られない。
まとめ
マンション管理を取り巻く環境は、年々複雑かつ多様化しています。
かつては区分所有者の中から選出された理事による運営が機能していた時代もありましたが、今やそれだけでは乗り越えられない課題が山積しています。
こうした中で、管理組合が的確な意思決定を行い、持続可能なマンション管理を実現するためには、「専門的知見を有する外部の力」を柔軟に取り入れることが欠かせません。
その選択肢の一つが、マンション管理士の活用です。
本記事では、マンション管理士の役割や活用方法、注意点を具体的に解説してきました。
最も大切なのは、「目的と期待を明確にし、信頼できるパートナーとして協働すること」です。
単に“委託する”のではなく、“共に考え、歩む存在”として位置づけることで、より実効性のある成果が期待できます。
管理組合がこれからも安心で適切な住環境を維持していくためには、従来の枠にとらわれず、新たな専門家との協働を模索し続ける姿勢が求められています。
マンション管理の「質」を高める第一歩として、ぜひ信頼できるマンション管理士の力を味方につけてください。
本記事も読んでいただきどうもありがとうございました。