標準管理規約

標準管理規約(会計)

マンションなどの共同住宅では、各居住者が自分勝手に生活してしまうと廊下やゴミ置場をはじめ、マンション館内全体が荒れてしまったり、居住者間のトラブルが絶えないようなマンションとなってしまいます。

このようなことを防ぐため、分譲マンションを購入すると、そのマンションの区分所有者で構成される団体(規約上で「管理組合」と呼ばれることになる団体)へ強制的に加入をすることとなり、法律の定めにしたがってマンションを管理していくことになります。

その代表的な法律が分譲マンションなど区分所有建物の各所有者の権利やマンション全体の管理方法などを定めた「区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)」と呼ばれる法律になります。

しかし、居住者の属性や家族構成、立地、築年数、設備・・・などなど、世界に1つとして同じマンションなど存在しません。

そのため、区分所有法だけでは居住者の方たちの適切な暮らしや的確な建物の維持・管理をしていくことには無理が生じてしまいます。

そこで、区分所有法ではそれぞれの区分所有マンションにおいて独自のルールを定めるための規約を制定することを認めています。(ただし、規約で定められないこともあります。)

そして、その規約の標準的な見本を国土交通省が作成しており、公表されているものが「標準管理規約」と呼ばれるものです。

本記事では、2021年に改正された最新の標準管理規約(単棟型)における「会計」について学び、理解を深めることができます。

会計年度(第56条)

標準管理規約第56条では「管理組合の会計年度は、毎年○月○日から翌年○月○日までとする。」と定められています。

管理組合の収入及び支出(第57条)

標準管理規約第57条では「管理組合の会計における収入は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料によるものとし、その支出は第27条から第29条に定めるところにより諸費用に充当する。」と定められています。

収支予算の作成及び変更(第58条)

収支予算案の提出と承認(第58条1項)

標準管理規約第58条1項では「理事長は、毎会計年度の収支予算案を通常総会に提出し、その承認を得なければならない。」と定められています。

収支予算の変更(第58条2項)

標準管理規約第58条2項では「収支予算を変更しようとするときは、理事長は、その案を臨時総会に提出し、その承認を得なければならない。」と定められています。

承認前の経費の支出(第58条3項)

標準管理規約第58条3項では「理事長は、第56条に定める会計年度の開始後、第1項に定める承認を得るまでの間に、以下の各号に掲げる経費の支出が必要となった場合には、理事会の承認を得てその支出を行うことができる。」と定められています。

第58条3項第一・二

一 第27条に定める通常の管理に要する経費のうち、経常的であり、かつ、第1項の承認を得る前に支出することがやむを得ないと認められるもの

二 総会の承認を得て実施している長期の施工期間を要する工事に係る経費であって、第1項の承認を得る前に支出することがやむを得ないと認められるもの

承認前に支出した経費の処理(第58条4項)

標準管理規約第58条4項では「前項の規定に基づき行った支出は、第1項の規定により収支予算案の承認を得たときは、当該収支予算案による支出とみなす。」と定められています。

災害時等の理事長による支出(第58条5項)

標準管理規約第58条5項では「理事会が第54条第1項第十号の決議をした場合には、理事長は、同条第2項の決議に基づき、その支出を行うことができる。」と定められています。

(標準管理規約第54条第1項第十号)
十 災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等

敷地及び共用部分等保存行為時の理事長による支出(第58条6項)

標準管理規約第58条6項では「理事長は、第21条第6項の規定に基づき、敷地及び共用部分等の保存行為を行う場合には、そのために必要な支出を行うことができる。」と定められています。

(標準管理規約第21条第6項)
理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。

【マンション標準管理規約(単棟型)第58条関係コメント】
① 通常総会は、第42条第3項で新会計年度開始以後2か月以内に招集することとしているため、新会計年度開始後、予算案の承認を得るまでに一定の期間を要することが通常である。第3項及び第4項の規定は、このような期間において支出することがやむを得ない経費についての取扱いを明確化することにより、迅速かつ機動的な業務の執行を確保するものである。
なお、第4項の規定については、公益法人における実務運用を参考として、手続の簡素化・合理化を図ったものである。

② 第3項第一号に定める経費とは、第27条各号に定める経費のうち、経常的であり、かつ、第1項の承認を得る前に支出することがやむを得ないと認められるものであることから、前年の会計年度における同経費の支出額のおよその範囲内であることが必要である。

③ 第3項第二号に定める経費とは、総会の承認を得て実施している工事であって、その工事の性質上、施工期間が長期となり、二つの会計年度を跨ってしまうことがやむを得ないものであり、総会の承認を得た会計年度と異なる会計年度の予算として支出する必要があるものであって、かつ、第1項の承認を得る前に支出することがやむを得ないと認められるものであることが必要である。

④ 第5項は、第54条第2項の決議に基づき、理事長が支出を行うことができることについて定めるものである。

⑤ 第6項は、第21条第6項の規定に基づき、災害等の緊急時において敷地及び共用部分等の保存行為を行う場合に、理事長が支出を行うことができることについて定めるものである。

会計報告(第59条)

標準管理規約第59条では「理事長は、毎会計年度の収支決算案を監事の会計監査を経て、通常総会に報告し、その承認を得なければならない。」と定められています。

監事は「管理組合の業務の執行及び財産の状況」を監査し、その結果を総会に報告しなければなりませんが、毎会計年度の収支決算案を総会へ報告し、承認を得るのは理事長の職務となります。

管理費等の徴収(第60条)

管理費等及び使用料の徴収方法(第60条1項)

標準管理規約第60条1項では「管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、組合員が各自開設する預金口座から口座振替の方法により第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は別に定める徴収日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。」と定められています。

管理費等未納に伴う遅延損害金等(第60条2項)

標準管理規約第60条2項では「組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。」と定められています。

遅延損害金は規約に定めがなくても法定利率(年3%(変動あり))は請求することが可能です。

管理費等未納組合員への措置(第60条3項)

標準管理規約第60条3項では「管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。」と定められています。

管理費等未納組合員への法的措置等(第60条4項)

標準管理規約第60条4項では「理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。」と定められています。

遅延損害金等の収納金の処理方法(第60条5項)

標準管理規約第60条5項では「第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、第27条に定める費用に充当する。」と定められています。

納付した管理費等の返還及び分割請求の禁止(第60条6項)

標準管理規約第60条6項では「組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。」と定められています。

【マンション標準管理規約(単棟型)第60条関係コメント】
① 管理費等に関し、組合員が各自開設する預金口座から管理組合の口座に受け入れる旨を規定する第1項の規定は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則(平成13年国土交通省令第110号。以下「適正化法施行規則」という。)第87条第2項第一号イの方法(収納口座の名義人を管理組合又は管理者とする場合に限る。)又は同号ハの方法を前提とした規定であり、これ以外の方法をとる場合には、その実状にあった規定とする必要がある。その際、管理費等の管理をマンション管理業者に委託する場合には、適正化法施行規則第87条第2項に定める方法に則した管理方法とする必要がある。

② 徴収日を別に定めることとしているのは、管理業者や口座(金融機関)の変更等に伴う納付期日の変更に円滑に対応できるようにするためである。

③ 管理費等の確実な徴収は、管理組合がマンションの適正な管理を行う上での根幹的な事項である。管理費等の滞納は、管理組合の会計に悪影響を及ぼすのはもちろんのこと、他の区分所有者への負担転嫁等の弊害もあることから、滞納された管理費等の回収は極めて重要であり、管理費等の滞納者に対する必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つであるといえる。管理組合が滞納者に対してとり得る各種の措置について段階的にまとめたフローチャート及びその解説を別添3に掲げたので、実務の参考とされたい。

④ 滞納管理費等に係る遅延損害金の利率の水準については、管理費等は、マンションの日々の維持管理のために必要不可欠なものであり、その滞納はマンションの資産価値や居住環境に影響し得ること、管理組合による滞納管理費等の回収は、専門的な知識・ノウハウを有し大数の法則が働く金融機関等の事業者による債権回収とは違い、手間や時間コストなどの回収コストが膨大となり得ること等から、利息制限法や消費者契約法等における遅延損害金利率よりも高く設定することも考えられる。

⑤ 督促及び徴収に要する費用とは、次のような費用である。
ア)配達証明付内容証明郵便による督促は、郵便代の実費及び事務手数料
イ)支払督促申立その他の法的措置については、それに伴う印紙代、予納切手代、その他の実費
ウ)その他督促及び徴収に要した費用

⑥ 第2項では、遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することが「できる」と規定しているが、これらについては、請求しないことについて合理的事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられる。

管理費等の過不足(第61条)

管理費等の余剰金(第61条1項)

標準管理規約第61条1項では「収支決算の結果、管理費に余剰を生じた場合には、その余剰は翌年度における管理費に充当する。」と定められています。

管理費等不足時の組合員の負担(第61条2項)

標準管理規約第61条2項では「管理費等に不足を生じた場合には、管理組合は組合員に対して第25条第2項に定める管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求めることができる。」と定められています。

預金口座の開設(第62条)

標準管理規約第62条では「管理組合は、会計業務を遂行するため、管理組合の預金口座を開設するものとする。」と定められています。

借入れ(第63条)

標準管理規約第63条では「管理組合は、第28条第1項に定める業務を行うため必要な範囲内において、借入れをすることができる。」と定められています。

(標準管理規約第28条第1項)
管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。
一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。)
に係る合意形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

借入れを認めているのは「修繕積立金」のみで、「管理費」の借入れを認める規定はありません。

帳票類等の作成、保管(第64条)

標準管理規約第64条では電磁的方法が利用可能ではない場合と可能な場合の2パターンの規定が存在します。

(ア)電磁的方法が利用可能ではない場合

(第64条1項)
理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。

(第64条2項)
理事長は、第32条第三号の長期修繕計画書、同条第五号の設計図書及び同条第六号の修繕等の履歴情報を保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。

(第64条3項)
理事長は、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。

(イ)電磁的方法が利用可能な場合

(第64条1項)
理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。

(第64条2項)
理事長は、第32条第三号の長期修繕計画書、同条第五号の設計図書及び同条第六号の修繕等の履歴情報を、書面又は電磁的記録により保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。

(第64条3項)
理事長は、第49条第5項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項及び第2項並びに第72条第2項及び第4項の規定により閲覧の対象とされる管理組合の財務・管理に関する情報については、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、理事長は、交付の相手方にその費用を負担させることができる。

(第64条4項)
電磁的記録により作成された書類等の閲覧については、第49条第5項に定める議事録の閲覧に関する規定を準用する。

【マンション標準管理規約(単棟型)第64条関係コメント】
① 第1項から第3項までにおける「利害関係人」については、コメント第49条関係①を参照のこと。

② 作成、保管すべき帳票類としては、第64条第1項に規定するものの他、領収書や請求書、管理委託契約書、修繕工事請負契約書、駐車場使用契約書、保険証券などがある。

③ 組合員名簿の閲覧等に際しては、組合員のプライバシーに留意する必要がある。

④ 第2項は、第32条で管理組合の業務として掲げられている各種書類等の管理について、第1項の帳票類と同様に、その保管及び閲覧に関する業務を理事長が行うことを明確にしたものである。なお、理事長は、理事長の責めに帰すべき事由により第1項の帳票類又は第2項に掲げる書類が適切に保管されなかったため、当該帳票類又は書類を再作成することを要した場合には、その費用を負担する等の責任を負うものである。

⑤ 第3項は、組合員又は利害関係人が、管理組合に対し、第49条第3項(第53条第4項において準用される場合を含む。)、本条第1項、第2項並びに第72条第2項及び第4項の閲覧ではなく、管理組合の財務・管理に関する情報のうち、自らが必要とする特定の情報のみを記入した書面の交付を求めることが行われている実態を踏まえ、これに対応する規定を定めるものである。書面交付の対象とする情報としては、大規模修繕工事等の実施状況、今後の実施予定、その裏付けとなる修繕積立金の積立ての状況(マンション全体の滞納の状況も含む)や、ペットの飼育制限、楽器使用制限、駐車場や駐輪場の空き状況等が考えられるが、その範囲については、交付の相手方に求める費用等とあわせ、細則で定めておくことが望ましい。別添4は、住戸の売却予定者(組合員)から依頼を受けた宅地建物取引業者が当面必要とすると考えられる情報を提供するための様式の一例に記載のある主な情報項目であり、上述の細則を定める場合の参考とされたい。

⑥ 第3項に規定する管理組合の財務・管理に関する情報については、これらの情報が外部に開示されることにより、優良な管理が行われているマンションほど市場での評価が高まることや、こうした評価を通じて管理の適正化が促されることが想定されることから、書面交付の対象者に住戸の購入予定者を含めて規定することも考えられる。一方で、開示には防犯上の懸念等もあることから、各マンションの個別の事情を踏まえて検討することが必要である。

消滅時の財産の清算(第65条)

標準管理規約第65条では「管理組合が消滅する場合、その残余財産については、第10条に定める各区分所有者の共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属するものとする。」と定められています。

【マンション標準管理規約(単棟型)第65条関係コメント】
共有持分割合と修繕積立金等の負担割合が大きく異なる場合は負担割合に応じた清算とするなど、マンションの実態に応じて衡平な清算の規定を定めることが望ましい。

まとめ

本記事の標準管理規約における「会計」についてご理解頂けましたか?

管理費・修繕積立金等を組合員から確実に徴収する業務はマンションの維持・管理をするための根幹と言っても過言ではない重要な業務となります。

特に投資用のマンションとして自身の住戸を貸し出している外部に居住している区分所有者の方たちによる管理費等の滞納は、連絡もつなかないことも頻繁にあり、深刻な問題となっています。

そのため管理費等の滞納は初期対応が重要で、1ヶ月でも滞納が始まったら直ちに催促することが大切です。

また、駐車場の使用料は、駐車場の管理の費用に充て、残りは修繕積立金に充当することが適切とされています。

しかし、多くの管理組合において、駐車場などの使用料は管理費に充当することを前提として管理費の徴収金額を設定してしまうことも珍しくありません。

その結果、駐車場等の使用料が減収となり、毎年の管理費会計の収支が赤字になってしまうような管理組合も散見します。

管理費は修繕積立金とは異なり、日々の管理のために毎月支出していく費用となるため不足することが予想されたら管理費の値上げを実施するなど迅速に対応する必要がでてきます。

管理組合の健全な財務状態は、マンションの適切な管理と維持に直結し、居住者の適切な暮らしに寄与するものです。

管理組合の適正な会計を心がけて下さい。

本記事も読んでいただきどうもありがとうございました。

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