マンション管理

役員報酬を支給して管理組合役員の担い手不足の解消と積極的な理事会活動を促す

日本国内のマンションでは現在、管理組合の役員の担い手不足も深刻な問題の1つです。

管理組合の役員の担い手がいないマンションでは、適切な管理を実施することが難しくなります。

その結果、マンションの資産価値の低下を招いたり、居住者の方たちの適切な暮らしも維持できないことにもつながっていくのです。

本記事を読むことで、管理組合役員の担い手不足を解消して積極的な理事会活動を促すための一つの対策として考えることができるでしょう。

役員の担い手不足の要因①組合員の高齢化


役員の担い手不足の大きな要因の1つは「管理組合員の高齢化」です。

マンションに居住する組合員は築年数が古いほど高齢者が住む割合も増えていく割合も増えます。

高齢者の方達は輪番制により役員に就任したとしても、身体的な事情により管理活動することが困難であることも少なくありません。

そのため、それらを理由に役員に就任することを拒否したり、輪番制であっても理事会活動などもほとんどできずに名ばかり役員となってしまう可能性も高くなります。

このように築年数が古いマンションでは組合員の高齢化による役員の担い手不足が深刻化しているわけです。

役員の担い手不足の要因②管理の無関心化


2つ目は、今に始まったことではありませんが、組合員による「管理活動への無関心化」による要因です。この無関心化の理由は大きく2つあります。

1つ目はマンション管理が複雑で難しいために専門知識や経験のない人たちにとっては始めから関心をもつことができずに、誰かがやってくれるだろうと他人任せにして無関心となってしまうことです。

2つ目にあげるものが私は最も深刻な理由だと捉えていますが、自身が所有するマンションに居住せずに住戸を賃貸して家賃収入を得ている外部に居住する管理組合員が多くなっているためです。

これらの人たちの多くは、マンションに居住している組合員とは考えが異なり、マンション全体の適切な管理をして居住者の方たちの適切な暮らしを維持していくことには関心がほとんどなく、いかに自身の労力やお金をかけずに安定した家賃収入を得ていくかに徹しているためです。

そのため役員への就任などはもちろんのこと、総会への出席や議決権の行使すら煩わしいと考え、総会の招集通知が届いても開封もせずに捨ててしまうような人まででてきます。

このような人たちは建物管理会社の担当者が連絡を取ろうと試みても全く連絡が取れないことも少なくないため、役員の担い手不足だけではなく、管理組合の合意形成をとることができずに深刻な問題となっているのです。

また、昨今では日本の不動産投資は世界でも人気があり、外国籍の人たちが日本の区分所有マンションを購入して不動産投資を行なっていることが非常に増えています。

そのため組合員が日本国内に住んでいないようなことも多くあり、所在不明など連絡をとることもより困難で、更に深刻な問題に発展させています。

このように管理の無関心化は役員の担い手不足だけではなく、役員の担い手がいるマンションであっても総会での合意形成がとれないために適切な修繕・補修をはじめ、様々な重要な改善が実現できない可能性が高まり、より深刻な問題を引き起こしているのです。

役員の担い手不足の要因③本業との両立の困難化


3つ目の要因はここ数年で増加していると感じているのですが、マンション管理活動の大切さ・重要さを理解している組合員であっても昨今の日本国内の慢性的な人手不足の影響もあり、本業とマンション管理活動の両立をすることが難しいため管理組合役員への就任を敬遠するという要因です。

マンションの管理組合役員の活動は、活動に対して見合った報酬が得られる仕事とは異なりボランティア性の高い活動になってしまうことが多いです。

そのため働いた分だけしっかりと賃金が得られる本業を優先してしまうことは必然のことであり、責められるものでもないでしょう。

そのような組合員の方達に管理組合の役員に就任してもらって積極的に管理活動してもらうためには、活動に見合った報酬を支給するなど魅力のある施策を講じることが必要だと考えます。

役員報酬を支給して担い手不足を解消する


役員の担い手不足解消の対応策として、役員の活動実績に応じて管理組合の管理費から役員報酬を支給することは有効な対策の1つでしょう。

ボランティア性の高い管理組合の役員活動に対し、報酬が支給されることで「それならばやってみよう!」と名乗りでてくれる方が現れる可能性が高くなります。

少なくとも役員報酬が支給されない時と比較して、役員就任のお願いをした時に良い返事が頂ける可能性は確実に高くなるでしょう。

ただし、役員に就任すれば誰でも一律に報酬が支給される仕組みではなく、理事会への出席など明確な支給基準を設定してその実績に応じ、上限を決めて支給することをお勧めします。

また、管理組合の管理費から役員報酬を支給するためには、管理規約に定めがあることと、実際の支給額などの詳細を決めて管理組合の総会で承認されることが必要です。

まず、管理規約へ定めることについては、国土交通省から公表されている「標準管理規約」をベースに管理規約を作成しているマンションであれば既に役員報酬を受け取れることが既に規定されているでしょう。(最新の2024年6月に改訂された標準管理規約では第37条2項に記載されています)

そして、詳細条件については細則にて支給額や支給条件を定め、毎年1回開催される通常総会において役員報酬の予算を計上して総会での承認を得ることが適切だと考えます。

なお、細則の制定には総会において普通決議の承認が必要となりますので覚えておいて下さい。

少し古いデータですが、国土交通省より公表された平成30年度マンション総合調査結果における役員報酬に対する結果を次のとおりにまとめて示します。

しかし、この調査結果で注意していただきたいのは、この結果が適切な目安ではなく、役員に就任して積極的に活動してもらうためには、より活動に見合った魅力的のあるものにしていく必要があるということです。

平成30年度マンション総合調査(抜粋)

1.役員報酬支払い状況
支払なし:73.3%
全員に支払っている:23.1%

2.役員報酬の支払い金額
①各役員一律支給の場合:3,900円/月
②各役員一律支給でない場合
・理事長:約9,500円/月
・理事 :約3,900円/月
・監事 :約3,200円/月

役員報酬の支給で積極的な理事会活動を促す


理事会活動をしていくとマンションの改善点が多く見えてきます。

そして、それらを改善するために積極的に活動していると、とても残念なことなのですが、居住者や他の組合員から反対意見や厳しい言葉を頂くことも増えてきてしまいます。

マンションなどの共同住宅では、人それぞれ考えが違うため、快適だと感じることも皆一緒ではありません。

マンションの管理規約に明確に定められていることに違反し、それを改善しようとすることでさえも抵抗するような人もいます。

そのため、積極的に理事会活動をすればするほど、沢山の意見を集めることにもつながり、役員報酬も支給されないボランティア要素の高い活動であれば初めは管理活動への意識の高かった理事であったとしてもモチベーションが低下してしまいます。

その結果、輪番制などで強制的に理事に就任させたとしても、ほとんど活動せずに名ばかり理事となってしまい、マンションの適切な管理が維持されていかないこととなるのです。

そうならないためにも、役員報酬を支給して積極的な理事会活動を促していくことが、多くのマンションにおいて有効な手段だと考えます。

特に築年数が何十年も経過していて、過去から役員報酬が支給されていないマンションでは、役員報酬を支給することに対して反対する方も多くなるでしょう。

しかし、過去は過去。時代は流れており、昭和や平成初期の時代で何とか回っていた多くの仕組みも現代では破綻しています。

今と未来を見据えて時代に即した検討をしていくことは何においても必要なことではないでしょうか。

マンション管理の専門家に役員就任を委託する


最も理想的な管理組合体制は管理活動の意識の高い組合員による理事たちで構成された理事会体制であることは間違いないと思います。

しかし、現実的には組合員が理事に就任して積極的に活動することには非常に労力がかかり、マンション管理には専門的な知識や経験が必要なことも多く、無理があるのではないかと常々感じています。

私もマンション管理は、やればやるほど奥深さが増してきて改善が尽きることがないと強く実感しています。

昨今の新築マンションの管理組合では、理事会方式を採用せずに管理者方式と呼ばれる管理者(理事会方式でいう理事長)+監事の2人の役員体制で運営する管理組合が増えてきています。

また、その管理者方式の体制でも組合員が管理者に就任するのではなく、管理組合から建物管理を委託される管理業者が管理者に就任する「外部管理者方式」と呼ばれるうちの「管理業者管理者方式」を採用しているマンションが特に多いのです。

外部管理者方式には管理業者管理者方式ではなく、外部のマンション管理士などが管理者に就任する方式もあります。

外部管理者方式には委託費用が発生することなど、その他にも様々なメリット・デメリットがでてきます。

本記事では外部管理者方式について詳しくは説明しませんが、今後は外部管理者方式を採用していかなければならない管理組合も増えていくのではないかと思っています。

役員報酬の支給などを実施しても管理活動意識の高い組合員による役員の担い手不足が解消しない場合には、組合員以外の管理の専門家に役員就任を委託して活動してもらう外部管理者方式も検討する必要がでてくるでしょう。

まとめ


本記事のおさらいをします

役員の担い手不足の要因

要因①組合員の高齢化

築年数の古いマンションほど高齢化が進んでおり、身体的理由により役員活動ができない

要因②管理の無関心化

・マンション管理に知識や経験がないため管理活動に関心を持てずに、他人任せにもなりやすい
・外部に居住する組合員のため家賃収入に対してのみ感心はあるが管理自体には全く興味がない

要因③本業との両立化の困難化

慢性的な人手不足により本業と管理組合活動の両立化をすることが難しい

役員の担い手不足の対策

役員報酬を支給して解消する

・役員報酬を支給することで、役員を引き受けてくれる可能性は確実に高まる
・実績に応じて支給するような条件にする
・役員報酬を支給するためには、管理規約、細則への制定及び総会で予算計上して決議する

役員報酬支給で積極的な理事会活動を促す

・理事会活動はすればするほど反対意見、厳しい意見も多くなる
・役員報酬でモチベーションUPさせる
・過去は過去。今と未来を見据えて役員報酬支給を検討していく

第三者のマンション管理の専門家に役員就任を委託する

役員報酬を支給するなどの対策をしても組合員による役員の担い手不足が解消しない場合には、組合員以外の管理の専門家に役員就任を委託して活動してもらう外部管理者方式も検討してみる

本日も読んでいただき、どうもありがとうございました。

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