昨今の多くのマンションでは、マンション居住者は24時間365日いつでもマンション内にあるゴミ庫にゴミを捨てることができ非常に便利です。
ゴミ庫に集められたゴミは、ゴミの回収日に管理人によって回収業者が回収してくれる場所まで搬出されます。
しかし、居住者のマナーが悪いマンションでは、可燃ゴミの中に瓶、缶、不燃物など同じ袋に入れて捨てるような居住者もおり、管理人はじめ建物管理会社、理事たちの悩みの一つとなっているのです。
このように分別されていないゴミは基本的には回収業者も回収してくれないため、捨てた人が持ち帰って分別してくれなければずっとゴミ庫に放置されることになります。
また、残念ながら回収されなかったゴミを搬出した当人が持ち帰ってくれることは稀です。
実際のマンションの現場では管理人が泣く泣くそのようなゴミを分別して搬出しているというところが多いのが現実ではないでしょうか。
しかし、基本的にゴミの分別は管理人の業務範囲には含まれておらず、居住者の出したゴミ袋を開けて分別をすることは様々なリスクを管理人に負わせることになります。
本記事を読むことでマンションの管理人がなぜゴミの分別をしてはいけないかを理解し、ゴミの分別リスクから管理人を守っていくことや、未分別ゴミへの対策と対応について学ぶことができます。
管理人がゴミの分別をしてはいけない理由1:(プライバシーの侵害リスク
他人が出したゴミ袋を勝手に開封する行為はプライバシーの侵害となり、クレームや最悪は訴えられるリスクにつながります。
マンションに限らず戸建ての人達が出すゴミ集積所などでゴミ奉行などが勝手に他人のゴミ袋を開封してトラブルになるという記事も度々見かけます。
もし、マンションで暮らしているあなたが、自分の出したゴミ袋を管理人が開封しているところを見たらどう思うでしょうか?
自分では分別して出していたと思っていたゴミがたまたま誤って分別されていなかったとしても、そのような現場を見たら非常に不快に感じるはずです。
特に女性であれば男性の管理人が自身の出したゴミ袋を開封している現場を目撃した時には非常に不快に感じ、建物管理会社にクレームの電話を入れるような方達も多くでてくるのではないでしょうか。
上述のことからもマンションの管理人が他人が出したゴミを開封して分別することにはプライバシーの侵害リスクが伴います。
私はこれまで100棟を超えるマンションで管理人の経験もしていますが、驚くべきことにマンション居住者や理事の方達だけではなく、管理人を雇用している建物管理会社の担当者までもが業務範囲外でありながらも管理人にゴミの分別を指示するようなことも見聞きしたこともあります。
マンション内にゴミの分別をしない居住者がいる場合には、管理組合(理事会)と建物管理会社が連携して対策を考え、管理人を守る必要があるのです。
管理人がゴミの分別をしてはいけない理由2:(怪我のリスク)
可燃ゴミの中に割れた瓶、ガラス、缶詰、ハサミのような鋭利な物などを入れて搬出するような居住者もいます。
そのようなゴミ袋を開封して分別をするためにゴミ袋の中に手を入れると、たとえ軍手などをしていたとしても怪我をするリスクがあることは容易に想像できるでしょう。
怪我のリスクを無くすためにも管理人がゴミの分別をすることは避けるべきです。
また、ガラスの破片や鋭利な刃物などは決められているサイズ内であれば不燃物で捨てることはできますが、管理人をはじめ、ゴミ回収後に関わる全ての方達のためにも怪我をしないように危険物だということがわかる表記をしたり、刃物にはガムテープやアルミホイルなどで覆って怪我をしないように配慮して捨てることを考えて欲しいものです。
管理人がゴミの分別をしてはいけない理由3:(ウィルス感染症などの感染リスク)
2020年3月頃より日本でも新型コロナウィルスの感染拡大によって、これまでの生活が一変してしまいました。
また、目に見えないウィルスなどへの対策に対する関心が非常に高くなり、お店の出入口には未だに消毒液が設置されているところも多くあります。
マンションの出入口でも消毒液を設置しているところも多く、私が理事を務めている複数のマンションでも消毒液スタンドを準備して未だに設置しています。
新型コロナウィルスもそうですが、人から直接ではなく感染者が触れた物を通して感染するウィルスも多いようです。
そのため他人のゴミを分別することはウィルスの感染リスクがそれだけ高くなる事を意味します。
特にマンションの管理人として働いている人は高齢者の方達が多く、新型コロナウィルスなどはじめ感染症に感染すると命に関わる一大事となります。
このように管理人によるゴミの分別は命に係わるような危険が伴いますので、管理人にはゴミの分別をさせない、してはいけないということを徹底させる必要があります。
そして、そのことがマンションの日常管理を適切に維持することにもつながり、管理組合にとっても非常に有益なことだと認識することが必要です。
未分別ゴミへの対策と対応
残念ながらマンション居住者による未分別ゴミの搬出を撲滅することは非常に困難です。
特に区分所有者が居住しておらず、賃貸している住戸が多いマンションでは中長期的に撲滅することは不可能といっても過言ではありません。
その理由はゴミ分別が一度徹底されたとしても賃貸人が入れ替わるたびに未分別ゴミが搬出される可能性が高まっていくからです。
多くの管理組合では本来であれば賃貸人が入居した時には入居届を管理組合に提出することが管理規約や細則などで規定されています。
しかし、実態は、その入居届すら提出してくれない賃貸人も多く、いつどの住戸で賃貸人が入退去したのかを管理組合側で把握することも難しいマンションも多いのです。
私も約3分の2の居住者が賃貸人となっているマンションで管理組合の理事長を数年務めており、未分別ゴミへの対応には何度も悩まされてきています。
そこで、これまで私が実施してきた未分別ゴミへの対策と対応についてご紹介したいと思います。
◆ゴミ分別の重要性について次の①②の事項を記載した書面を作成し、マンション館内への掲示板などへ掲示して周知する
①ゴミの分別は管理人の業務ではなく、居住者の義務であること
②ゴミの分別をしないことにより管理人に下記のような様々な危険要素がでてくること
・管理人が他人の出したゴミ袋を開けて分別することはプライバシーの侵害だと訴えられる可能性がある
・管理人がゴミの分別をしないことによりゴミが回収されずゴミが溜まり、居住者からのクレームにつながる
・管理人がゴミの分別をすることにより不燃物(鋭利な物)、缶、瓶などで怪我をする可能性がある
・管理人がゴミの分別をすることにより新型コロナウィルスなどの感染症のリスクが高まる
・管理人がゴミの分別をすることにより時間が割かれて本来の業務が滞り、居住者からのクレームにつながる
ゴミ回収業者が回収しない未分別ゴミが発生した際の対応
①回収されない未分別ゴミの写真を撮影し、その画像とゴミ庫からゴミを持ち帰って分別することを記載した書面を迅速に作成し、マンション内の掲示板などに掲示する
②2~3日程度経過しても持ち帰らない場合はゴミ庫からマンション館内のエントランスや1階エレベーターホールなど目立つところに移動する(持ち帰って分別するように記載した書面もゴミ袋に貼付けする)
③管理組合の理事などにてゴミ袋の開封や防犯カメラの録画映像を確認し、搬出者が特定できれば該当の居住者へゴミを返却して厳重注意する。
※搬出者を特定できなかった場合にはやむを得ず、管理組合の理事たちなど複数人でゴミの分別を実施する
上記の対応はマンション居住者などからクレームがあがってくることも想定され、建物管理会社の決断で実施することは困難です。
管理組合の理事長(管理者)や理事などの役員が主体となって決断し、未分別ゴミの撲滅と管理人を守っていくことが「マンション全体の適切な管理の維持につながる」という確固たる信念と意思をもって取り組むことが必要となります。
未分別ゴミへの対応についてマンションの細則などで対応方法について明確に規定することもお勧めです。
まとめ
これまで述べてきたように管理人によるゴミの分別は管理人に多くの危険にさらさせることになるため、してはいけない。させてはいけません。
しかし、大変残念ながら実態は管理人が泣く泣く分別してしまっているというマンションが大半なのではないでしょうか。
それは特に生ごみなど可燃ゴミの袋の中に瓶や缶などが混在している場合、ゴミ庫内に1日保管しているだけでも夏場などでは悪臭がただようことになります。
そのようなゴミを分別されていないからといって何日も放置すると、結局のところ日常清掃をする管理人が悪臭の被害を最も受けることになります。
非常に意識の高い管理組合、理事会であれば迅速な対応をしてくれるかもしれませんが、残念ながらそのようなマンションはほんの一握りでしょう。
そのため管理人が多くのリスクを背負いながらも分別してしまっているというのが実状であることはほぼ間違いないと思います。
私もこれまで管理人として勤務していた時に、所属している管理人の会社からも分別は禁止だと指導を受けていたものの、その会社も管理会社もその現場にきて改善・対応してくれるわけでもないため、泣く泣く分別してしまっていました。
一方、私が理事長を務めているマンションの管理人さんには、ゴミの分別はNGとお伝えし、未分別のゴミが発生したら速やかに雇用主である建物管理会社の担当者へ連絡してもらい、その担当者と連携してできる限り迅速に対応するように心がけています。
マンションの管理は管理組合が主体となって管理組合員が自ら積極的に取り組むべきだとマンション管理の有識者たちや国交省をはじめとした行政からたびたび発信されています。
しかし、その考えは理想的ではありますが、多くのマンションでの実態とはかけ離れていて、的確な考え方ではないのではないでしょうか。
昨今の日本国内の状況は少子高齢化などの要因もあり、どの業界でも慢性的な人手不足に陥っていて、PTA、町内会などの役員の担い手不足をはじめ、マンション管理組合の役員の担い手不足も深刻な問題の一つになっています。
管理組合の理事などの役員への就任は役員報酬もほとんど支給されない、支給されたとしても活動に見合う金額が支給されるようなところは少ないでしょう。
そのため、そのようなボランティア性の高い管理組合の理事などへの就任に立候補して積極的に活動しようと思う管理組合員はごくわずかなはずです。
特に働き盛りの会社員が本業の傍ら管理組合活動を積極的に取り組むことを期待すること、強いることは現代において的確な考えとは思えません。
また、マンションの管理人は日本政府主導による雇用延長の政策などの影響にもより他の業種と比較してもより慢性的な人手不足が進行しています。
それは、マンション管理人のなり手の中心は会社を定年退職した方達だからです。
数年前までは定年退職した60代の方達が管理人のなり手の中心であったものが、現在では70代の方達が中心に移ってきています。
そして現状では、マンションの管理人が見つからずに管理人が不在となっているマンションも多くなってきているのです。
そのため建物管理会社によっては、管理人業務が滞り管理業務を受託している管理組合へは管理人業務の費用を返金したり、管理人業務を受託管理業務から除外するなど管理人業務から撤退することも増えているようです。
管理人の立場から見れば、管理人として勤務するマンションを選ぶことが容易となっています。
私も管理人として勤務する時には、労働環境の悪かったマンションへの勤務は二度と受けることはしません。
すなわち、ゴミの未分別が多発するような管理人の労働環境の悪いマンションでは、管理人が定着せずに日々違う管理人が勤務したり、管理人が慢性的に不在となるような事態が起こってきています。
昭和や平成初期の時代には上手く(何とか?)回っていた仕組みが現在では破綻してきており、今後はこれまでの固定観念にとらわれない新しい発想での取り組みが必要となってきているのです。
これからの多くのマンションでは、最終的には最高意思決定機関である管理組合の総会で様々なことを決定していくことは変わりませんが、管理組合から管理を委託する建物管理会社と連携して迅速に活動できるマンション管理士などの専門家が管理組合の管理者(理事長)となってリーダーシップをとり、管理組合を適切な方向へと導いていくことが実態に即した的確な管理体制になっていくことと確信しています。
本記事も読んでいただき、どうもありがとうございました。