約20年ぶりとなる大幅な区分所有法改正が、2025年5月に公布され、2026年4月1日に施行されます。
今回の改正では、区分所有者に新たな義務や管理上のルールが加わりました。
本コラムでは、「第一章 第六節 所有者不明専有部分管理命令」の改正条文を全文掲載し、その内容と管理運営への影響を解説します。
所有者不明専有部分管理命令
新設条文:第四十六条の二 1項~4項
第四十六条の二
裁判所は、区分所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分(専有部分が数人の共有に属する場合にあつては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない専有部分の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る専有部分又は共有持分を対象として、所有者不明専有部分管理人(第四項に規定する所有者不明専有部分管理人をいう。第三項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明専有部分管理命令」という。)をすることができる。
2 所有者不明専有部分管理命令の効力は、当該所有者不明専有部分管理命令の対象とされた専有部分(共有持分を対象として所有者不明専有部分管理命令が発せられた場合にあつては、共有物である専有部分)又は共用部分、附属施設若しくは建物の敷地にある動産(当該所有者不明専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権(いずれも当該所有者不明専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
3 所有者不明専有部分管理命令は、所有者不明専有部分管理命令が発せられた後に当該所有者不明専有部分管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明専有部分管理命令の対象とされた専有部分又は共有持分並びに当該所有者不明専有部分管理命令の効力が及ぶ動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権の管理、処分その他の事由により所有者不明専有部分管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
4 裁判所は、所有者不明専有部分管理命令をする場合には、当該所有者不明専有部分管理命令において、所有者不明専有部分管理人を選任しなければならない。
📝解説
所有者を特定できない、または所在不明の専有部分(または共有持分)について、裁判所が利害関係人の申立てにより「所有者不明専有部分管理人」を選任し、その管理を命じることができる制度が新設されました。
管理命令の効力は、対象専有部分に加え、関連する共用部分・附属施設・敷地利用権・動産などにも及ぶとされています。
これにより、所有者不明区分に起因する管理・修繕の停滞を防ぎ、マンション全体の維持管理を法的に担保する新たな枠組みが整備されたといえます。
所有者不明専有部分管理人の権限
新設条文:第四十六条の三 1項・2項
第四十六条の三
前条第四項の規定により所有者不明専有部分管理人が選任された場合には、所有者不明専有部分管理命令の対象とされた専有部分又は共有持分並びに所有者不明専有部分管理命令の効力が及ぶ動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権並びにこれらの管理、処分その他の事由により所有者不明専有部分管理人が得た財産(以下「所有者不明専有部分等」という。)の管理及び処分をする権利は、所有者不明専有部分管理人に専属する。
2 所有者不明専有部分管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもつて善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明専有部分等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
📝解説
所有者不明専有部分管理人は、管理命令の対象となった専有部分やその関連財産(共用部分に関する権利・敷地利用権・動産等)について、管理・処分の権限を専属的に有するとされています。
ただし、その権限は無制限ではなく、保存行為や性質を変えない範囲での利用・改良行為を超える場合には、裁判所の許可が必要です。
もっとも、許可を欠いても善意の第三者には対抗できない旨も明記されています。
この規定により、管理人の法的地位と権限の範囲が明確化され、所有者不明専有部分に関する実務上の管理行為の適法性と取引安全の両立が図られています。
所有者不明専有部分等に関する訴えの取扱い
新設条文:第四十六条の四 1項~5項
第四十六条の四
所有者不明専有部分管理命令が発せられた場合には、所有者不明専有部分等に関する訴えについては、所有者不明専有部分管理人を原告又は被告とする。
2 所有者不明専有部分管理命令が発せられた場合には、所有者不明専有部分等に関する訴訟手続で当該所有者不明専有部分等の所有者(その共有持分を有する者を含む。第五項において同じ。)を当事者とするものは、中断する。
3 前項の規定により中断した訴訟手続は、所有者不明専有部分管理人においてこれを受け継ぐことができる。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
4 所有者不明専有部分管理命令が取り消されたときは、所有者不明専有部分管理人を当事者とする所有者不明専有部分等に関する訴訟手続は、中断する。
5 所有者不明専有部分等の所有者は、前項の規定により中断した訴訟手続を受け継がなければならない。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができる。
📝解説
所有者不明専有部分管理命令が発せられた場合、その対象となる専有部分等に関する訴訟の当事者は、管理人となることが明確にされました。
これにより、所有者不明のまま訴訟を進めることができず手続が停滞する従来の問題を解消します。
命令発令後は、当該所有者を当事者とする訴訟は中断し、管理人が訴訟を承継できる仕組みとなっています。
また、命令が取り消された場合には逆に、管理人を当事者とする訴訟が中断し、所有者がその手続きを承継する義務を負うと定められています。
この規定により、訴訟関係の明確化と手続の継続性が担保され、所有者不明住戸をめぐる法的紛争への実務対応が可能となった点が重要です。
所有者不明専有部分管理人の義務
新設条文:第四十六条の五 1項・2項
第四十六条の五
所有者不明専有部分管理人は、所有者不明専有部分等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもつて、その権限を行使しなければならない。
2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明専有部分管理命令が発せられたときは、所有者不明専有部分管理人は、当該所有者不明専有部分管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
📝解説
所有者不明専有部分管理人は、所有者の利益を保護する立場に立ち、善良な管理者の注意義務をもって職務を遂行すべきことが明記されました。
また、対象が共有持分である場合には、共有者全員に対して誠実かつ公平に権限を行使する義務が課されています。
この規定により、管理人の行為が単なる代理的管理にとどまらず、信任関係に基づく受任者としての高い注意義務と公正性が求められる職責であることが明確化されました。
所有者不明専有部分管理人の解任及び辞任
新設条文:第四十六条の六 1項・2項
第四十六条の六
所有者不明専有部分管理人がその任務に違反して所有者不明専有部分等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明専有部分管理人を解任することができる。
2 所有者不明専有部分管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
📝解説
所有者不明専有部分管理人が任務違反等により専有部分等へ著しい損害を与えた場合や、その他重要な事由がある場合には、利害関係人の申立てにより裁判所が解任できる旨が定められました。
また、管理人自身も正当な事由がある場合には、裁判所の許可を得て辞任することが可能です。
これにより、管理人の職務適正を確保するとともに、管理人の地位に関する公正な統制と柔軟な運用の両立が図られています。
所有者不明専有部分管理人の報酬等
新設条文:第四十六条の七 1項・2項
第四十六条の七
所有者不明専有部分管理人は、所有者不明専有部分等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 所有者不明専有部分管理人による所有者不明専有部分等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明専有部分等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。
📝解説
所有者不明専有部分管理人は、裁判所の定める額の費用の前払および報酬を、対象財産(所有者不明専有部分等)から受けることができるとされました。
また、これらの費用および報酬の負担者は、当該専有部分等の所有者(共有の場合は各共有者)と明確に規定されています。
この条文により、管理人制度の運用に不可欠な費用負担と報酬支払いの根拠が明文化され、実務上の持続可能性が確保されました。
次回のコラムでは、「第一章 第七節 管理不全専有部分管理命令及び管理不全共用部分管理命令」の改正内容をご紹介していきます。
条文の正確な理解は、健全な管理運営の第一歩です。
本記事該当の区分所有法(2026年改正版)現行・改正比較表(PDF)
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