区分所有法

区分所有法(区分所有者の先取特権・権利義務等)

分譲マンションでは、一棟のマンションの住戸(部屋)を区分けして販売します。

このように住戸を区分して所有する際の、各区分所有者の権利やマンション全体の管理方法などを定めた法律を区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)と呼びます。

この記事では、区分所有法における「区分所有者の先取特権や権利義務等」について知ることができます。

区分所有者の権利義務等(第6条)

区分所有法第6条1項では「区分所有者は、建物の保存に有害な⾏為その他建物の管理⼜は使⽤に関し区分所有者の共同の利益に反する⾏為をしてはならない。」と定められています。

これを要約すると、「区分所有者は、マンションの建物が適切な維持を保てなくなるような行為や使い方をして、他の区分所有者の方たちの利益に反することはしてはいけない」ということです。

いくつか例をあげると、「共用廊下などの共用部へ私物を放置すること」、「マンション敷地内に粗大ゴミを放置すること」、「共用部分の設備や建物の一部を壊すこと」などがあげられますが、まだまだ他にも沢山のことがあげられます。

また、上述の内容は区分所有者だけではなく、もちろん部屋を賃借して居住している占有者(賃借人)にも準用されます。

次に区分所有者は、「自身の住戸など専有部分又はマンションの共用部分を保存や改良する場合には、必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自身の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる」と定められています。(第6条2項)

これは例えば、自身の住戸と隣の住戸のバルコニーの間に設けられている火災などの際に突き破って避難する隔て板が壊れてしまった時の修復作業の時などがあげられるでしょう。

隔て板を修復する際には、自身の住戸のバルコニーだけでなく、隣の住戸のバルコニーにも立ち入らなければ修復することが難しいです。

そのため、隣の住戸の部屋である専有部分と、共用部分で専用使用権が設けられているバルコニーに立ち入ることが請求できるというわけです。

最後に、区分所有法第6条4項では「⺠法(明治⼆⼗九年法律第⼋⼗九号)第⼆百六⼗四条の⼋及び第⼆百六⼗四条の⼗四の規定は、専有部分及び共⽤部分には適⽤しない。」と定められています。

上述の民法の内容はここでは詳しい解説はしませんが、民法の条文を次の通りに記載しておきます。

ご興味のある方はご欄下さい。

民法第264条の8

1.裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第4項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。

2.所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

3.所有者不明建物管理命令は、所有者不明建物管理命令が発せられた後に当該所有者不明建物管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物又は共有持分並びに当該所有者不明建物管理命令の効力が及ぶ動産及び建物の敷地に関する権利の管理、処分その他の事由により所有者不明建物管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。

4.裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。

5.第264条の3から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。

民法第264条の14

1.裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第3項に規定する管理不全建物管理人をいう。第4項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という 。)をすることができる。

2.管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。

3.裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。

4.第264条の10から前条までの規定は、管理不全建物管理命令及び管理不全建物管理人について準用する。

先取特権(第7条)

区分所有法第7条では、区分所有者や管理者及び管理組合法人は「債務者の区分所有権(共⽤部分に関する権利及び敷地利⽤権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上」に先取特権を有することが定められています。

先取特権とは、他の債権者よりも優先的に自己の債権の弁済を受けられる権利のことです。

区分所有法上認められている先取特権について次のとおりにまとめてみます。

担保される債権①

共⽤部分、建物の敷地若しくは共⽤部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権

【具体例】
・他の区分所有者の管理費、修繕積立金などを立て替えた場合の立替金の返還請求権

担保される債権②

規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権

【具体例】
・規約や集会の決議で管理費や修繕積立金などを定めた場合の支払い請求権
管理組合の滞納管理費等の債権は、区分所有者全員と滞納をしている区分所有者間の債権債務関係となる(管理組合法人でない場合)

担保される債権③

管理者⼜は管理組合法⼈がその職務⼜は業務を⾏うにつき区分所有者に対して有する債権

【具体例】
・管理者が管理費用を立て替えた場合など、管理者や管理組合法人が職務執行する上で必要な費用の前払請求権や返還請求権
役員報酬は先取特権の対象外となります

区分所有法第7条2項

区分所有法第7条2項では、前述の先取特権は、「共益費用の先取特権」とみなすとされています。

共益費用の先取特権は、一般の先取特権には優先しますが、「動産先取特権」、「不動産先取特権」には劣後します。

そして、先取特権の行使は、まず建物に備え付けた債務者の動産から行使され、それでも債権を回収できない場合に債務者の区分所有権等を競売にかけて回収する流れになります。

また、先取特権には「物上代位性」が備わっており、債務者が住戸である専有部分などを賃貸している場合には、その賃料に対しても先取特権を行使することができます。

区分所有法第7条3項

区分所有法第7条3項では「⺠法第319条の規定は、第⼀項の先取特権に準⽤する。」と定められています。

民法第319条の条文では「第192条から第195条までの規定は、第312条から前条までの規定による先取特権について準用する。」とうたわれております。

そして、民法第192条から第195条の条文は次のように定められています。

第192条

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する

第193条

前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

第194条

占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。

第195条

家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から1箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。

上述の定めにより、例えば、区分所有者Xが区分所有者Yに対して有する債権について先取特権を行使する場合、区分所有者Yが第三者Zから借り受けていた動産も即時取得の規定が準用されることになります。

特定承継人の責任(第8条)

区分所有者法第8条では「第7条第1項で規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継⼈に対しても⾏うことができる」と定められています。

区分所有者の特定承継人とは、区分所有者からの専有部分の買主、買受人(強制執行や抵当権などの担保権の実行による競売を原因とした所有者となった者)、受贈者(もらった人)等のことです。
※ 区分所有者の専有部分を賃借している賃借人は特定承継人には当たりません。

このことを簡潔にわかりやすく例をあげて説明します。

例えば、管理費や修繕積立金などを滞納している区分所有者X氏が、専有部分である住戸をY氏に売却した場合には、区分所有者X氏がそれまで滞納していた滞納金や遅延損害金の請求を区分所有者Y氏に対しても行えるということです。

もし、区分所有者Y氏が滞納金や遅延損害金を支払った場合には、区分所有者Y氏は区分所有者X氏に求償することができます。

管理費などを滞納している区分所有者Xと特定承継人である区分所有者Yが、区分所有者Xの滞納金を承継しないというような売買契約を交わしたとしても管理組合から滞納金や遅延損害金を請求された場合は拒否することはできません。

建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定(第9条)

区分所有法第9条では、「建物の設置⼜は保存に瑕疵があることにより他⼈に損害を⽣じたときは、その瑕疵は、共⽤部分の設置⼜は保存にあるものと推定する。」と定められています。

このことをもう少し分かり易く説明します。

マンション建物内による損害が発生した場合に、瑕疵の所在が不明(専有部分なのか共用部分なのかが不明)な場合でも、その損害がその建物の設置又は保存に瑕疵があることさえ被害者が立証できれば、その瑕疵は共用部分の設置又は保存にあると推定されるというものです。

これは、被害者が困難な立証ができずに泣き寝入りして損害賠償を請求できないことを防ぐ効果があります。

推定とは、明瞭でない事実関係について一応の判断を下すことです。
そのため、真実が明らかになった場合はその真実に判断が覆ることになります。

民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)

民法717条第1項では土地の工作物等の占有者及び所有者の責任が次のように定められています。

民法717条第1項

「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」

これは、マンション敷地内に建てられたマンション建物や付属の施設などの設置または保存の瑕疵によって他人に損害を与えた時には、まずは建物の占有者が被害者に対して損害を賠償責任を負うというものです。

しかし、占有者に過失がない場合には、所有者が無過失で損害を賠償する責任を負うことになります。

例えば、Xマンションの705号室に賃貸で居住しているAさんの専用使用権のあるバルコニーの手すりの部品などが落下し、たまたま下を歩いていたXマンションとは無関係の第三者Bさんに落下物があたって怪我をしたとします。

その時の責任はまず、住戸の占有者でバルコニーの専用使用権を持つAさんが負うことになります。

しかし、部品の落下原因が建築当時の瑕疵によって引き起こされており、Aさんに過失がない時には所有者に過失があったかどうかは関係なく、所有者が責任を負うことになるのです。

この例えの場合、バルコニーは共用部分となるため区分所有者全員で責任を負うことになります。

区分所有権売渡請求権(第10条)

区分所有法第10条では、「敷地利⽤権を有しない区分所有者があるときは、その専有部分の収去を請求する権利を有する者は、その区分所有者に対し、区分所有権を時価で売り渡すべきことを請求することができる」とされています。

これは、何らかの理由で敷地利用権を失った区分所有者が発生した場合などには、その専有部分の収去を請求する権利を有する者(土地が借地であればその土の地所有者)は、その区分所有者に対して区分所有権を時価で売り渡すことを請求できる権利「区分所有権売渡請求権」です。

この区分所有権売渡請求権は、権利者が権利行使の意思表示をするだけで一方的に効果が生ずる「形成権」であるため、相手方(敷地利用権を有しない区分所有者)の承諾なしに売買契約が成立してしまいます。

まとめ

今回の区分所有者の先取特権・権利義務等の区分所有法いかがでしたでしょうか?

区分所有法は民法との関係も深く、今回の記事もとても難しかったと思います。

全てを一度に理解しようとはせず、少しづつ必要な時に勉強して理解していただくのが良いかもしれません。

本記事も読んでいただきどうもありがとうございました。

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