近年、多くのマンションで、管理会社から管理委託費の値上げを求められるケースが増えています。

その背景には、最低賃金の上昇や人手不足による人件費の高騰、物価上昇、設備点検費用や各種資材費の上昇など、マンション管理業界を取り巻く厳しい経営環境があります。

こうした社会情勢を考えれば、管理委託費の値上げには一定程度やむを得ない側面があることも事実です。

しかし、管理組合としては、管理会社から値上げを求められたからといって、そのまま受け入れればよいというものではありません。

管理委託費の増額は、管理組合の支出増加に直結し、場合によっては将来的な管理費の値上げにもつながります。

だからこそ、次のような点を冷静に確認することが重要です。

  • なぜ値上げが必要なのか
  • 値上げ幅は妥当なのか
  • 現在の業務内容に見直せる部分はないか
  • 他社と比較した場合でも適正な金額なのか

本記事では、管理会社が管理委託費の値上げを求める背景と、値上げ要請を受けた際に管理組合が検討すべき対応について解説します。

管理会社が管理委託費の値上げを求める理由

管理会社が管理委託費の値上げを求める理由としては、主に次のようなものが考えられます。

人件費の高騰

特に影響が大きいのが、人件費の上昇です。

管理員や清掃員については、最低賃金の上昇に加え、人手不足による採用難が続いています。

これまでと同じ勤務時間や業務内容を維持するためには、従来より高い賃金水準で人材を確保しなければならないケースも増えています。

また、人手不足は管理員や清掃員だけの問題ではありません。

マンションを担当するフロント担当者についても人材確保が難しくなっており、管理会社全体として人件費の負担が大きくなっています。

物価上昇や各種委託費の高騰

マンション管理には、さまざまな費用が発生します。

例えば、次のような費用です。

  • 清掃用品や消耗品
  • 設備の交換部品
  • 消防設備点検
  • 給排水設備点検
  • エレベーター保守
  • 機械警備
  • その他の設備保守・点検

こうした費用が上昇すれば、それらを管理委託契約の中で負担している管理会社のコストも増加します。

その結果、従来の管理委託費では採算を維持することが難しくなり、管理組合へ価格改定を求めるケースが生じます。

管理会社自身の経営環境の変化

マンション管理業界では、人材不足や業務コストの増加を背景として、採算性を重視する傾向が強まっています。

以前であれば、利益率が低くても契約を継続していたマンションについて、現在では管理業務の内容や委託費を見直し、適正な利益を確保しようとする管理会社も増えています。

そのため、単純な一律値上げではなく、

「現在の業務内容を維持するのであれば値上げが必要」

あるいは、

「値上げを抑えるためには業務仕様の見直しが必要」

といった提案を受けることもあります。

値上げ要請を受けた管理組合が取るべき対応

現在の経済状況を考えれば、管理会社からの値上げ要請そのものを一概に不当と考えるべきではありません。

一方で、管理委託費の増額は管理組合の財政に大きな影響を与えます。

物価上昇によって組合員それぞれの生活費も増えている中、管理費まで値上げとなれば、組合員への負担はさらに大きくなります。

そのため管理組合としては、値上げを単純に受け入れるのではなく、値上げの妥当性を確認したうえで、可能な限り負担増を抑える方法を検討することが重要です。

まずは値上げの「根拠」と「内訳」を確認する

管理会社から値上げ要請があった場合、最初に行いたいのが、値上げ理由の確認です。

単に「人件費が上がったため」「物価高騰のため」という説明だけで判断するのではなく、可能であれば値上げ額の根拠が分かる資料を提出してもらいましょう。

例えば、次のような項目を確認します。

  • 現在の管理委託費
  • 改定後の管理委託費
  • 業務項目ごとの増減額
  • 管理員・清掃員業務の増額
  • 設備管理業務の増額
  • その他の経費の増額

値上げ理由は妥当か

最低賃金の上昇、人件費の高騰、物価上昇など、客観的に確認できる要因による値上げであれば、一定の合理性があります。

ただし、重要なのは、

「値上げの理由があること」と「提示された値上げ額が妥当であること」は別問題

という点です。

値上げ理由そのものに合理性があったとしても、その値上げ幅まで適正とは限りません。

値上げ額の内訳を確認する

可能であれば、人件費、設備管理費、一般管理費、その他経費など、どの部分がどれだけ増加するのか確認しましょう。

値上げ総額だけを見るのではなく、どの業務にどれだけのコストがかかっているのかを把握することが、その後の交渉や業務見直しにつながります。

値上げ幅だけでなく「業務内容」も見直す

値上げの根拠を確認したら、次に検討したいのが現在の管理業務そのものです。

これまでと全く同じ管理仕様を維持したまま、値上げ額だけを下げてもらう交渉には限界があります。

そこで、

「値上げを抑える代わりに、業務内容を効率化できないか」

という視点で管理仕様を見直してみましょう。

管理員・清掃業務の見直し

管理委託費の中でも、人件費の割合が大きいのが管理員や清掃員の業務です。

例えば、次のような見直しが考えられます。

  • 管理員の勤務時間を短縮できないか
  • 勤務日数を見直せないか
  • 常駐型から巡回型へ変更できないか
  • 清掃回数を減らしても管理品質を維持できないか
  • 清掃範囲に過剰な部分がないか

もちろん、単純に業務を減らせばよいわけではありません。

マンションの規模、築年数、設備、居住者の状況などを踏まえ、管理品質への影響が少ない部分から見直すことが大切です。

管理組合で対応できる業務がないか検討する

管理会社へ委託している業務の中には、内容によっては管理組合側でも対応できるものがあります。

例えば、次のような業務です。

  • 掲示物の管理
  • 共用部の簡易な巡回
  • 簡単な消耗品の交換
  • 一部の書類整理

こうした業務を管理組合側で対応することで、管理会社の業務負担を減らし、その分を委託仕様から外せる可能性があります。

ただし、役員や居住者の負担を過度に増やしてしまっては本末転倒です。

特に役員の担い手不足が課題となっているマンションでは、金額だけを優先して管理組合側へ業務を移し過ぎないことも重要です。

設備管理業務の「分離発注」を検討する

管理会社との契約の中に、次のような設備管理業務が含まれている場合があります。

  • エレベーター保守
  • 消防設備点検
  • 給排水設備点検
  • 機械警備

これらについて、それぞれの専門業者と管理組合が直接契約する「分離発注」を検討する方法もあります。

管理会社を経由せず直接契約することで、費用を抑えられる場合があります。

一方、分離発注を増やせば、管理組合自身が契約管理や業者との調整を行う必要が生じます。

したがって、「安くなるか」だけではなく、「管理組合側の負担がどれだけ増えるか」についても確認したうえで判断することが必要です。

管理会社の業務負担を減らす

管理会社のフロント担当者の負担を軽減する工夫も考えられます。

例えば、次のような方法があります。

  • 理事会の開催日や開催時間をできるだけ固定する
  • オンライン理事会を活用する
  • 役員からの依頼や質問を整理してまとめて行う
  • 管理会社へ依頼する業務と管理組合で対応する業務を明確にする

直接的に管理委託費が下がるとは限りませんが、管理会社にとって管理しやすいマンションにすることは、長期的な契約関係を考えるうえでも重要です。

値上げ幅や実施時期を交渉する

業務内容を確認したうえで、それでも値上げが必要と判断される場合には、値上げ幅や実施時期について交渉します。

例えば、一度に大幅な値上げを受け入れるのではなく、

「今年度は〇%、翌年度にさらに〇%」

といった段階的な値上げができないか協議する方法があります。

管理会社としても契約を継続したい意向がある場合には、一定の調整に応じてもらえる可能性があります。

ただし、単に値下げを要求するだけではなく、次のような事情を説明しながら、双方が納得できる条件を探ることが大切です。

  • 管理組合の財政状況
  • 現在の管理費水準
  • 将来的な修繕積立金の負担
  • 組合員への影響

他の管理会社から相見積もりを取る

管理会社から大幅な値上げを求められ、協議をしても折り合いがつかない場合には、他の管理会社から相見積もりを取得することも有効です。

ただし、ここで重要なのは、

「管理会社を変更すれば必ず安くなる」と考えないことです。

現在はマンション管理業界全体で人件費や物価が上昇しています。

そのため、相見積もりを取得した結果、他社の提示価格も現在の管理委託費より高かった、というケースも十分に考えられます。

相見積もりの目的は「安い会社探し」だけではない

現在の状況では、相見積もりを取得する目的は、単純なコスト削減だけではありません。

大きな目的は次の2つです。

現管理会社の値上げ額が妥当か確認する

他社の見積額と比較することで、現在の管理会社から提示された値上げ後の管理委託費が、市場水準から大きく外れていないか判断できます。

つまり相見積もりは、現在の管理会社の提示額を検証する材料にもなります。

同じ費用を支払うなら、より良い管理会社がないか確認する

仮に他社へ変更しても管理委託費が同程度であれば、

「同じ金額を支払うのであれば、どの会社の管理品質が最も高いか」

という観点から比較できます。

現在の管理会社への不満が多い場合には、値上げをきっかけとして管理体制全体を見直す良い機会になることもあります。

相見積もりでは「金額」だけを比較しない

管理会社を比較する際に最も注意したいのが、見積金額だけで判断しないことです。

管理委託費と業務内容のバランス

安い見積もりであっても、現在の管理会社が行っている業務の一部が含まれていなければ、単純比較はできません。

そのため、できるだけ同じ仕様・条件で見積もりを取得し、

「同じ業務内容ならいくらなのか」

を比較することが重要です。

管理品質

管理会社選定では、金額と同じくらい管理品質が重要です。

例えば、次のような点も確認しましょう。

  • フロント担当者の経験や対応力
  • フロント担当者の担当物件数
  • 管理員への教育体制
  • 緊急時の対応体制
  • 会計や滞納管理の体制
  • 修繕工事への対応
  • 他のマンションでの管理実績

管理委託費が多少安くても、管理品質が大きく低下してしまえば、管理組合にとって良い選択とは言えません。

契約内容

管理委託契約書や重要事項説明書についても確認が必要です。

特に、次のような項目を確認しましょう。

  • 管理会社が行う業務の範囲
  • 管理組合側が行う業務
  • 緊急時の対応
  • 契約更新や解約条件
  • 追加費用が発生する業務

見積価格だけでは分からない条件が契約書に定められていることもあります。

管理会社の変更は「最後の選択肢」として慎重に

管理会社から大幅な値上げを求められ、業務内容の見直しや価格交渉を行っても合意できない場合には、管理会社を変更することも選択肢となります。

しかし、管理会社の変更は簡単ではありません。

複数社からの見積取得、候補会社との面談、理事会での比較検討、総会への議案提出、契約締結、旧管理会社から新管理会社への引き継ぎなど、多くの手続きが必要です。

また、新しい管理会社へ変更すれば必ず管理品質が向上するとも限りません。

そのため、

「値上げされたから管理会社を変える」

のではなく、

「現在の管理会社との契約を継続する場合と、他社へ変更する場合のどちらが管理組合にとってメリットが大きいか」

という視点で判断することが重要です。

管理会社変更は、現管理会社との協議を十分に行ったうえで検討する、最終的な選択肢の一つと考えたほうがよいでしょう。

まとめ

管理会社からの管理委託費の値上げ要請は、人件費や物価の上昇、人手不足など現在の社会情勢を踏まえれば、ある程度やむを得ない側面があります。

しかし、管理組合としては、

「このような社会情勢だから、値上げは仕方がない」

と、そのまま受け入れる必要はありません。

まずは値上げの理由と内訳を確認し、次のような順番で検討していくことが大切です。

  1. 値上げ額は妥当か
  2. 現在の業務内容に見直せる部分はないか
  3. 値上げ幅や時期を交渉できないか
  4. 他社と比較しても適正な価格なのか
  5. 現在の管理会社を継続することが本当に最善なのか

また、管理委託費を下げることだけを目的とするのではなく、管理品質とのバランスを考えることも忘れてはいけません。

管理委託費が安くなっても、管理員業務や清掃、フロント担当者の対応などが大きく低下してしまえば、マンション全体の管理に悪影響を及ぼす可能性があります。

目指すべきなのは、

「最も安い管理」ではなく、「管理品質に見合った適正な価格での管理」

ではないでしょうか。

管理会社からの値上げ要請は、管理組合にとって負担となる問題である一方、現在の管理業務や契約内容を見直す良い機会でもあります。

必要に応じてマンション管理士などの外部専門家も活用しながら、管理会社任せにするのではなく、管理組合が主体となって判断していくことが、長期的に良好なマンション管理を維持することにつながります。

本記事も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ABOUT ME
MLC片岡マンション管理士事務所
現場の経験+確かな知識+新たな発想でマンション管理組合を全力サポートします。