2026年4月施行「マンション管理適正化法」改正のポイント~管理業者管理者方式の透明性を強化~
2026年4月1日、マンションを取り巻く法制度が大きく変わりました。
同日には区分所有法の大幅な改正も施行されているため、総会決議要件の見直しなどが注目されがちですが、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)」についても、管理組合の実務に関係する重要な改正が行われています。
特に大きなポイントとなるのが、マンション管理会社が管理組合の「管理者」を兼ねる「管理業者管理者方式」に関するルールの整備です。
また、所有者不明・管理不全となった専有部分等への対応についても、新たな仕組みが導入されています。
なお、今回の改正では「マンション管理適正化法」そのものだけでなく、法律を具体的に運用するためのルールを定めた「マンション管理適正化法施行規則」についても改正が行われています。
法律が制度の大枠を定めるのに対し、施行規則では、重要事項説明の方法や財産の分別管理など、マンション管理業者が実務上守るべき具体的なルールが定められています。
本コラムでは、マンション管理適正化法と施行規則の双方を含め、2026年4月1日に施行された主な改正内容について、管理組合の実務に関係するポイントを中心に解説します。
※本稿は2026年9月時点の制度に基づいて記載しています。
目 次
Toggleなぜ「管理業者管理者方式」のルール整備が必要になったのか
マンションでは近年、建物の高経年化だけでなく、区分所有者の高齢化や役員の担い手不足なども問題となっています。
そのため、
- 理事会役員のなり手がいない
- 理事会活動への参加者が少ない
- 管理組合だけでは専門的な判断が難しい
といった課題を抱えるマンションも少なくありません。
こうした問題への対応方法の一つとして、区分所有者から理事長等を選任する従来の理事会方式ではなく、外部の第三者を区分所有法上の「管理者」とする方式があります。
その中でも、日常の管理業務を委託しているマンション管理会社そのものを管理者として選任する方式が、「管理業者管理者方式」です。
管理業者管理者方式には、役員の担い手不足への対応や、管理会社が持つ専門性を活用できるというメリットが考えられます。
一方で、管理会社が、
「管理組合を代表して発注する立場」
と、
「管理業務や修繕工事等を受注する立場」
の双方になる可能性があります。
そのため、利益相反を防止するとともに、管理組合財産の安全性や取引の透明性を確保する仕組みが必要とされていました。
今回の改正は、こうした問題に対応するため、管理業者管理者方式について法律上のルールを整備したものです。
「管理者受託契約」に重要事項説明のルールを整備
一般的なマンションでは、管理組合と管理会社との間で「管理委託契約」を締結し、会計・出納、建物設備管理、管理員業務などを管理会社へ委託しています。
一方、管理会社自身を管理者に選任する場合には、通常の管理委託業務とは別に、管理者として行う事務についての「管理者受託契約」が関係してきます。
今回の改正では、管理会社が管理者受託契約を締結する場合について、契約締結前の重要事項説明や書面交付などのルールが整備されました。
説明対象には、
- 管理者として行う事務の内容
- 管理者の権限
- 管理者事務に要する費用
- 契約期間
- 契約の更新・解除に関する事項
などが含まれます。
つまり、単に「管理会社に管理者を任せる」というだけではなく、どのような権限を持ち、何を行い、その対価としていくら支払うのかを区分所有者に明確にする仕組みが設けられたことになります。
これに対応し、国土交通省は2025年12月に「マンション標準管理者事務委託契約書」を新たに策定するとともに、管理業者管理者方式に対応した「マンション標準管理委託契約書」や「マンション標準管理規約(書き換え表)」も整備しています。
なお、今回の改正省令に係る契約関係の規定については、原則として2026年4月1日以降に締結する契約から改正後の規定が適用されます。
自社・関係会社との利益相反取引について事前説明を義務化
今回の改正で特に重要なのが、利益相反のおそれがある取引についての規制です。
マンション管理適正化法第77条の2では、管理会社が管理者となっているマンションにおいて、その管理会社自身や一定の関係会社との取引を行おうとする場合、総会決議に先立ち、区分所有者へ重要な事実を事前に説明することが求められるようになりました。
例えば、
「管理会社が管理者として修繕工事を発注し、その工事を自社やグループ会社が受注する」
といったケースです。
このような取引では、発注先や発注金額が本当に管理組合にとって適切なのかという問題が生じる可能性があります。
そのため、取引相手との関係、取引内容、金額やその算出根拠、相見積りの内容など、区分所有者が取引の妥当性を判断するために必要な事項について説明する仕組みが設けられました。
ここで注意したいのは、大規模修繕工事だけの問題ではないということです。
対象となる取引に該当すれば、日常的な修繕や設備関係の発注などについても関係する可能性があります。
したがって、管理業者管理者方式では、大きな工事だけでなく、日常的な発注についても透明性を確保することが重要になります。
もちろん、災害時など緊急性の高い場合には一定の例外も設けられているため、「すべての取引について必ず同じ手続が必要」というわけではありません。
なお、国土交通省は2026年5月、今後のマンション管理業者への立入検査等において、管理業者管理者方式における利益相反のおそれがある取引の事前説明義務等について重点的に法令遵守の指導を行う方針を明らかにしています。
制度ができただけではなく、既に行政による監督の対象として運用が始まっている点にも注意が必要です。
管理組合財産の分別管理についてもルールを整備
マンション管理では、毎月の管理費だけでなく、将来の大規模修繕に備えた修繕積立金など、多額の資金を取り扱います。
特に管理会社自身が管理者となる場合には、
「管理組合の資金を管理する立場」
と、
「管理組合から管理委託費や工事代金等の支払いを受ける立場」
が近接することになります。
そのため、管理組合財産について適切な管理体制を確保することが非常に重要です。
マンション管理適正化法第76条では、マンション管理業者に対し、管理組合から受領した管理費や修繕積立金等を、自己の固有財産や他の管理組合の財産と分別して管理することを求めています。
そして、その具体的な管理方法について定めているのが、マンション管理適正化法施行規則第87条(財産の分別管理)です。
今回の施行規則改正では、管理業者管理者方式を踏まえ、従来から定められている財産の分別管理ルールについて、マンション管理業者自身が管理者となる場合の保管口座等に係る印鑑・キャッシュカード等の保管要件が新たに整備されました。
つまり、「財産の分別管理」という制度そのものが今回新しく設けられたのではなく、管理会社が管理者も兼ねる場合に、管理組合の預金を動かすための印鑑等をどのような条件で保管できるのかが、より具体的に規定されたということです。
一定の場合には、適切な保管体制の確保、保証契約、口座名義、区分所有者への説明・書面交付、総会決議などの要件を満たす必要があります。
また、国土交通省は2026年4月1日、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を改訂し、
- 管理業者管理者方式を導入する際の手続
- 利益相反取引への対応
- 印鑑等の保管体制
などについて整理しています。
管理業者管理者方式を検討する場合には、管理者として何を任せるのかだけではなく、「管理組合のお金を誰が、どのような権限とチェック体制のもとで管理するのか」まで確認することが重要です。
所有者不明・管理不全の専有部分等への対応も強化
マンションの高経年化に伴って今後大きな問題になる可能性があるのが、所有者の所在が分からない住戸や、適切に管理されていない専有部分です。
2026年4月1日に施行された改正区分所有法では、
- 所有者不明専有部分管理制度
- 管理不全専有部分管理制度
- 管理不全共用部分管理制度
といった財産管理制度が創設されました。
これらは、一定の要件のもとで裁判所が管理人を選任し、対象となる専有部分や共用部分を管理させる制度です。
これに対応して、マンション管理適正化法第5条の2の2では、一定の場合に、都道府県知事等が地方裁判所に管理命令を請求することができる仕組みが設けられました。
例えば、管理不全となった専有部分等がマンション全体の適正な管理に影響を及ぼしているにもかかわらず、管理組合だけでは対応が難しいケースなどにおいて、この制度の活用が考えられます。
重要なのは、行政自身が対象財産を管理する制度ではないということです。
都道府県知事等が裁判所に管理命令を請求し、裁判所が選任した管理人が対象財産を管理するという仕組みです。
一つの住戸の所有者不明・管理不全がマンション全体の維持管理に影響するケースへの対応策が増えたことは、高経年マンションにとって重要な改正といえるでしょう。
関連する行政権限の強化は「2025年11月28日」に先行施行
今回のマンション関係法改正は、すべてが2026年4月1日に一斉に施行されたわけではなく、内容によって施行日が異なります。
例えば、地方公共団体による管理不全マンションへの対応については、2025年11月28日に、
- 報告徴収・立入検査
- 修繕の実施状況も踏まえた勧告
- 勧告後の専門家のあっせん等
といった権限強化が先行して施行されています。
また、NPO法人や一般社団法人等の民間団体を地方公共団体が「マンション管理適正化支援法人」として登録し、官民で管理組合を支援する制度も同日に施行されています。
一方、前述した財産管理制度に関する都道府県知事等の裁判所への請求については、2026年4月1日施行です。
そのため、今回の法改正を確認する際には、「2025年11月28日施行」「2026年4月1日施行」「2027年4月1日施行」を分けて考えることが重要です。
一般的な「理事会方式」のマンションにはどう影響するのか
現在も区分所有者から理事を選任し、理事長を管理者とする一般的な理事会方式を採用しているマンションについては、管理業者管理者方式に関する今回の規制が直ちに直接適用されるわけではありません。
しかし、今後さらに役員の担い手不足が進めば、理事会方式から外部管理者方式への変更を検討するマンションは増える可能性があります。
その場合、
「管理会社に管理者を任せれば理事会をなくせて楽になる」
という点だけで判断することは適切ではありません。
管理者の権限、管理者に対する監督体制、利益相反への対応、管理組合財産の管理方法、契約終了時の対応なども含めて検討する必要があります。
管理業者管理者方式は、役員不足への対応策の一つにはなり得ますが、すべてのマンションに適した万能な管理方式ではありません。
マンションの規模、区分所有者の構成、これまでの管理組合運営、管理会社との関係などを踏まえ、それぞれのマンションに適した管理方式を考えることが重要です。
区分所有法も2026年4月1日に大きく改正
なお、2026年4月1日にはマンション管理適正化法だけでなく、区分所有法も大幅に改正されています。
総会決議の考え方、所在等不明区分所有者への対応、共用部分の変更、規約・議事録等の電子化など、一般的な管理組合にとっては区分所有法改正の方が日常の総会運営に直接影響する事項も多くあります。
特に注意したいのは、改正区分所有法に抵触する従前の管理規約の規定は、2026年4月1日以降、その部分について効力を失うという点です。
管理規約をまだ改正していないマンションでも、従前の規約だけを確認して総会を運営するのではなく、改正法との整合性を確認する必要があります。
区分所有法の改正については別コラムで詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
管理計画認定制度の新築への拡充は「2027年4月1日」から
もう一つ、施行時期を混同しやすいのが管理計画認定制度です。
今回の法改正では、分譲事業者が新築時から適切な管理計画を作成して認定申請を行い、その管理計画を管理組合へ引き継ぐ仕組みや、認定マンションの表示制度も整備されています。
ただし、これらの施行日は2026年4月1日ではありません。
2027年(令和9年)4月1日施行です。
2026年4月施行の管理業者管理者方式等の改正とは分けて理解する必要があります。
まとめ
2026年4月1日に施行されたマンション管理適正化法および同法施行規則の改正では、特に管理業者管理者方式の透明性と適正性を確保するための仕組みが強化されました。
主なポイントとしては、
- 管理者受託契約について重要事項説明等のルールを整備
- 管理会社自身や一定の関係会社との利益相反取引について、総会決議に先立つ事前説明を義務化
- 管理業者管理者方式における印鑑・キャッシュカード等の保管要件を施行規則で整備
- 所有者不明・管理不全の専有部分等について、都道府県知事等が裁判所に管理命令を請求できる仕組みを整備
などが挙げられます。
役員の担い手不足が深刻になる中、今後は従来の理事会方式だけでなく、管理業者管理者方式を含めた様々な管理体制を検討するマンションも増えていくと考えられます。
しかし、重要なのは単に、
「理事会方式か、管理者方式か」
を選ぶことではありません。
誰が意思決定を行い、その意思決定を誰がチェックし、管理組合の財産をどのように守るのか。
今回のマンション管理適正化法改正は、管理者方式を採用する場合には、こうしたガバナンスの仕組みがこれまで以上に重要になることを明確にした改正ともいえるでしょう。
管理方式を変更する場合には、メリットだけでなく、管理者の権限、監視体制、利益相反への対応、財産管理の方法などを含め、それぞれのマンションの実情に応じて慎重に検討していくことが重要です。
理の方法などを含め、それぞれのマンションの実情に応じて慎重に検討していくことが重要です。
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